深川夏眠の備忘録

自称アマチュア小説家の雑記。

ブックレビュー『笑う吸血鬼』『ハライソ‐笑う吸血鬼2』

丸尾マンガ読み返し週間。

立て続けに『笑う吸血鬼』&続編『ハライソ‐笑う吸血鬼2』。

 

笑う吸血鬼

笑う吸血鬼

 
ハライソ―笑う吸血鬼 2

ハライソ―笑う吸血鬼 2

 

 

どちらも発売直後に初版を購入。

連載のことは全然知らなくて、

1冊目をたまたま書店で見かけて「おおっ!」と手を出し。

普通サイズのリニューアル版が出たようですが、

緻密な画風なので、重くても大きい方がいいですよ、なんちゃって。

 

『笑う吸血鬼』は都会の片隅で鬱屈した日々を送る中学生が

吸血鬼として生きる老女に見初められ、仲間になる話。

彼=毛利耿之介とクラスメイトの宮脇留奈、それから、

ある秘密を抱えた辺見外男がメインキャラクター。

 

『ハライソ‐笑う吸血鬼2』は、その後、耿之介と留奈がどうなったか。

耿之介の美形ぶりがグレードアップして正視に堪えないほどなのだが(笑)

悲劇的な衝撃のオチを迎えるのだった……(涙)。

 

2冊を通して、さほど露骨なエログロ描写があるでもなく、

血飛沫も決して多くないのに、紙面から立ち上る色香と腐臭が凄まじくて

鼻血が出そうになります。

 

私は吸血鬼モチーフの作品が好きとは言っても、

地味で奥手な女子が貴公子風のヴァンパイアに見初められ……みたいな、

大昔の少女漫画のヴァリアントめいた筋立てに興味はなく、

小説で言えばシオドア・スタージョン『きみの血を』のような、

普通の人間の心の暗黒面を抉る系の作品を愛好するので

(まあ、この世の条理の外へ出て行ってしまうのだけれども)

この2作を愛読し続けているのでありました。

 

ブックレビュー『瓶詰の地獄』

丸尾マンガ読み返し週間。

今回は『瓶詰の地獄』。

 

瓶詰の地獄 (ビームコミックス)

瓶詰の地獄 (ビームコミックス)

 

 

収録作は夢野久作の名作をコミカライズした表題作の他、

オリジナル短編「聖アントワーヌの誘惑」(真面目な神父の受難),

落語を元にした「黄金餅」,

不遇な異母姉弟を描いた「かわいそうな姉」。

 

購入したのは2012年初版。

読んですぐにブクログにレビューを投稿していたが、

例によって大したことは書いていなかった。

 

 短編4作収録。
 表題作は夢野久作の同名小説コミカライズ。
 成長した兄・太郎の顔が、どことなく写真で見る夢野久作に似ている気が。
 「かわいそうな姉」は、
 渡辺温の同名作品を元にしているのかと思ったが、読んでみたら違った。
 でも、やっぱりかわいそう(泣)

 

といった程度(苦笑)。

基本的に丸尾作品は「絵」を楽しむものなので、

ストーリーについて細かく云々するのも野暮よねぇ……と思っているからか。

 

読んだ後に眠ると大体変な夢を見ますがね(笑)。

ブックレビュー『パノラマ島綺譚』

2009年に手塚治虫文化賞・新生賞を受賞した、

丸尾先生の『パノラマ島綺譚』を読み返した。

購入したのは2008年の初版なので、受賞前。

 

パノラマ島綺譚 (ビームコミックス)
 

 

ブクログを使い始めてじきに書いたレビューを転記すると――

 

 あの風景をいかに画像化するかが問題なワケですけど、ああ、これだ――と、
 異論を挟む余地のない素晴らしいヴィジュアライズ!
 全体としては、とても流れの緩やかな、
 意図的に回転速度を落として再生される映画を
 観せられているかのような印象を受けました。
 あとですね、千代子が無口なのがイイ(゚∀゚)!
 「なぜ」「どうなってるの」等々、

 小うるさいことをゴチャゴチャ言わないところが。
 蘇生した夫は本人ではないかもしれない、この人はニセモノでは……

 という疑念を抱いたら、不安と恐怖で固まってしまうというのが

 自然というかリアルじゃないでしょうか。

 

……ですね。

個人的には終盤に登場する明智小五郎が、

ちょっと嫌なヤツっぽい二枚目で、得も言われぬ色気があって好きです。

 

またそのうちじっくり鑑賞しよう。

 

 

 

 

 

ブックレビュー『月的愛人』『犬神博士』

久しぶりにヨロヨロと書棚の一画に手が伸びて、丸尾先生の本を二冊連続で読了。

 

新装版『月的愛人 -Lunatic Lovers-』(青林工藝舎:2009年初版第2刷)と

『犬神博士』(秋田書店:2011年15版)。

 

最初に読了した当時、ブクログに綴ったことを転記してみる。

もっとも、まったく大したことは書いていなかったが(笑)。

 

『月的愛人』

 1980年代末~1990年代前半に『ガロ』その他の雑誌に発表された短編集。
 連載打ち切りになったという「犬神博士」のアーキタイプ(タイトル同じ)も
 未完ながら面白い。
 完結した「犬神博士」が、切られたところからそのまま続いたのではなく、
 別の物語になっていったことも興味深い。
 小泉八雲耳なし芳一のはなし」や

 江戸川乱歩「屋根裏の散歩者」の本歌取りも見事。
 何より絵が美しく、つい、ボーッと眺めてウットリしてしまう。

月的愛人―ルナティックラヴァーズ

月的愛人―ルナティックラヴァーズ

 

 

『犬神博士』

 夢野久作の同名小説とは無関係な、オカルト短編連作マンガ。
 式神を使って呪いを成就しようとする者たちの報復合戦。
 タイトルの「犬神」は、
 式神を使役する者が呪力を授かるために祀る犬の首。
 基本、丸尾先生の作品に
 ストーリー性は求めていませんが(多くのファンがそうだと思う)
 これは意外にもきちんとしたドラマになっていて驚き(笑)。
 寡黙な犬神博士=犬飼さん、超カッコイイ!
 けど、ちょっと物足りない。
 欲を言えば、もう少し続きが読みたいんだよなぁ。

犬神博士

犬神博士

 

 

一つの世界がクッキリ出来上がっていて美しいのなら、

後からいろいろ付け足す必要はないのかもしれない……ということで、

『犬神博士』これにて完――で、いいのだろうけど、

どうしても欲を出して「もっと読みたい」と思ってしまう。

殊に、二話で途絶した旧「犬神博士」!

ホテル《水月園》を経営する古賀家の面々と、

賢いシェパードのバルバロッサ(赤髯皇帝)、そして、

主人公オサムの亡き祖父……等々、味のあるキャラクターの活躍を。

(このおじいちゃんが新『犬神博士』犬飼さんのプロトタイプっぽい)

縦ロールのおばあちゃん、素敵だし(笑)。

 

カクヨム始めました。

若い人の集まりに無理にオバハンが首を突っ込むようで

躊躇していましたが(恥)

ジャンルはラノベ以外にもいろいろOKなので

カクヨムにアカウントを作りました。

横書き・ルビ付きだから

退会したパブーの代わりに使えれば……くらいの気持ちで。

あ、パブーでは上手くいかなかった傍点も標準装備ですしね。

Romancerで発表済の掌編・短編をアップしようと思っています。

横書きじゃないと読みにくい派の方は是非、こちらで。

よろしくどうぞ。

ブックレビュー『時の娘』

読みかけのメモをTwitterに投稿したので、

 

 

その流れということで、

ロバート・F・ヤング繋がりで過去のブックレビューを転載。

『時の娘~ロマンティック時間SF傑作選』

 

時の娘 ロマンティック時間SF傑作選 (創元SF文庫)

時の娘 ロマンティック時間SF傑作選 (創元SF文庫)

 

 

タイムトラベルを扱った中短編集で、表題作は有名なミステリ小説とは無関係。
収録9編の初出は1930年代後半から
1970年(を少し過ぎるくらい)までだそうで、
いずれも古きよき強く優しく懐の深いアメリカのイメージが横溢している。
編者のセンスのなせる業とはいえ、
やはり、いい時代だったんだろうなぁ……と、しみじみ。

以下、特にハートを鷲掴みにされた作品について。

 

■ウィリアム・M・リー「チャリティのことづて」
 同じ町に住む現代(1965年)の少年と、265年前(1700年)の少女の心の交流。
 二人は厚い時間の壁に隔てられ、決して触れ合うことはできない。
 ムズムズするほど奥床しくてチャーミングなロマンティックSF!

 

ジャック・フィニイ「台詞指導」
 1960年代、ニューヨークで
 40年前の禁酒法時代の映画を撮影するチームが
 往時のスタイルの大道具・小道具を集めて準備していたら

 時間の捩じれが起きて、40年前のニューヨーカーたちと接触
 その中の一人は……という、
 フィニイらしい、優しさと残酷さが詰まった切ない佳品。
 原題"double take"の意味は
 意外な物事を見過ごし、または聞き流した後で気がついてハッと驚くこと。
 まさにソレ!

 

■ロバート・F・ヤング「時が新しかったころ」
 タイムマシンで白亜紀を調査するカーペンターは、
 誘拐犯の手から逃れた火星人の姉弟マーシーとスキップを助ける。
 長大な距離と時間を超えて成就した純愛に不覚にも落涙(!)。

 

■ロバート・M・グリーン・ジュニア「インキーに詫びる」
 音楽評論家ウォルトンアスター
 少年時代の愛犬インキーの死の真相やその他の真実を知るため、

 過去へ遡ったが……。
 覆面作家(正体不明)の技巧的な一品。

 

ブックレビュー『きみの血を』+α。

小泉喜美子『血の季節』の話をしたら、これにも触れねばならない。

シオドア・スタージョン『きみの血を』。

 

きみの血を (ハヤカワ文庫NV)

きみの血を (ハヤカワ文庫NV)

 

 

これも小泉さんがあとがきでお気に入りと書いていらした作品で、

ずっと後になって復刻されたハヤカワ文庫版を買って読了。

……って、今までに何回読んだのやら。

内容についてはこちらをご参照ください。

最新の感想です。

 

で、過日読み返して改めて痛感しましたが、

私の創作の根に『血の季節』と『きみの血を』がガッツリ食い込んでいる!

のでした、多分。

ミステリのようで、そうでもない、

地味な普通の人間の暗黒面をクローズアップする物語が

つくづく好きなのだな、と。

 

調子に乗って

「きみのちを(Some of Your Blood)」→「きみのしお(Some of Your Salt)」

などというフザケた小説まで書いてしまった(汗)。

 

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Romancer版『きみの塩 -Some of Your Salt-』表紙

 

日報の形式で綴られた事件簿……ですが、そこは

軍曹と大佐の往復書簡を踏まえてのこと。

もっとも、長編『サンギーヌ』の後日譚なので、

そちらを先に読んでいただかないと「なんじゃこりゃ?」だと思いますが(汗)。