深川夏眠の備忘録

自称アマチュア小説家の雑記。

ブックレビュー『ラヴクラフトの遺産』

ラヴクラフトに影響を受けた英米の作家によるオマージュ・アンソロジー

ワインバーググリーンバーグ=編『ラヴクラフトの遺産』(創元推理文庫)読了。

 

 

SFありホラーあり、玉石混交の短編集といったところ。

以下、あらすじと感想をつらつらと微妙にネタバレ感を醸しつつ……。

 

 

ロバート・ブロック「序――H.P.ラヴクラフトへの公開書簡」

An Open Letter to H.P.Lovecraft

書簡の形を取って故人に語りかける調子で綴られたラヴクラフト

 

レイ・ガートン「間男」

The Other Man

シャロンの就寝中の様子がおかしくなり、

不安を覚えた〈ぼく〉は彼女の蔵書に目を通して秘密に迫ろうとした――。

幽体離脱中に懇ろになった男と実体を以て fxxk するため、

妻が夫にも幽体離脱させて彼の精神が抜け出た肉体に間男をインストールする、

という話(はあ?)。

読みにくい文章以上にしっくり来ないのは、

原典と通俗エロ話の相性が悪いせいではなかろうか。

 

モート・キャッスル「吾が心臓の秘密」

A Secret of the Heart

見た目は70歳ほどだが、

〈蕃神〉の力によって、それ以上年を取らなくなったという語り手〈吾輩〉こと

ウィリアム・ロデリック(仮)の来し方。

 

グレアム・マスタートン「シェークスピア奇譚」

Will

16世紀末、ロンドンのテムズ川南岸に建てられ、後に焼失した劇場《グローブ座》の

発掘現場で、考古学者らは不可解な死体を発見した――。

シェイクスピア×クトゥルー神話

 

ブライアン・ラムレイ「大いなる〝C〟」

Big "C"

2013年、〈第二の月〉が発見され、

三年後、英国人ベンジャミン・スマイラー・ウイリアムズが掘削調査に赴いたが、

彼は癌に冒されて死を待つ身だった。

しかし、帰還した彼の身体は劇的に変化しており――。

 

友情さえ恐怖を断つことはできない。(p.173)

 

タイトルの Big "C" とは医師によって仮に名付けられた、

死を前にしていたはずのスマイラーを生かしている謎の器官を指す。

癌の意である cancer が蟹座をも表し、

蟹座の守護星が月だということにほくそ笑みつつ

倉橋由美子の掌編「革命」を思い出した。

 

 

ゲイリー・ブランナー「忌まわしきもの」

Ugly

容姿にコンプレックスを抱えるマーレイ・クラインは

美しくて少し高慢な妻と二人暮らし。

マーレイの趣味は蚤の市巡りで、ある日、

煉瓦一個ほどの大きさのプラスティック塊に封じ込められた歪な顔のトカゲに

心惹かれて購入したが……。

タイトル ugly はマーレイとトカゲ、

ついでに言えば彼にそれを売った佝僂の男をも指している。

虐げられた、あるいは疎外されたものたちの復讐劇と受け取れなくもない。

 

ヒュー・B・ケイヴ「血の島」

The Blade and the Claw

マーク・キャノンは妻エレンと共にハイチに滞在することに。

だが、旧友が手配してくれた家には怪しい気配が……。

死者の霊が加害者らに報復するという、呪術が人々の生活に浸透し、

現代も生き続けているハイチならではの設定と言えるが、

過剰なゴア描写はラヴクラフト作品群へのオマージュと言えるのかどうか疑問。

 

ジョゼフ・A・シトロ「霊魂の番人」

Soul Keeper

妻ルーシーが、とある宗教に帰依し、

稼ぎをせっせと寄付することに業を煮やしたカール・コンドンは口喧嘩の末、

家を出た。

車を飛ばした彼は事故を起こしてしまい、

意識を取り戻したときはどこかの屋敷で介抱されていたのだが……。

 

チェット・ウィリアムスン「ヘルムート・ヘッケルの日記と書簡」

From the Papers of Helmut Hecker

作家ヘルムート・ヘッケルは

三年の月日をかけて完成させた大作をエージェントに送ったが、不可解な反応が――。

プロの創作家といえども完全なから新しい作品を生み出すことは出来ず、

偉大な先達のエッセンスを(意識的にも無意識的にも)なにがしか取り込むのが

普通かもしれない、という事象の極端な例か。

 

ブライアン・マクノートン「食屍鬼メリフィリア」

Meryphillia

人間と食屍鬼(グール)が共存する(?)世界に生きる内気な少女メリフィリアは

18歳の誕生日を迎える前に人間側の生活に見切りをつけ、グールの仲間入り。

だが、あるとき人間の青年に恋してしまい……という、スプラッタ・ラヴコメディ。

 

ジーン・ウルフ「黄泉の妖神」

Lord of the Land

民間伝承を収集するネブラスカ大学のサミュエル・クーパー博士は

老人ホップ・サッカー宅を訪れ、聞き取りを行った。

老人は天国へ行きそこねて地上をさまよう幽霊を屠る〈魂(たま)抜き鬼〉について

語った。

〈魂抜き鬼〉は格別飢えているときは

生身の人間の魂を抜こうとすることもあるという。

サッカー家には老人の息子ジョーと更にその娘(ホップ老人の孫)サラもいて、

サラが甲斐甲斐しく世話を焼いてくれたが、

サミュエルは何かがおかしいと感じた――。

ジョーが既に魂を奪われて人ならぬものに成り代わっており、

ホップとサラがサミュエルの力を借りてジョーの成れの果てを始末しようとした……

という話に読めるのだが、

ジーン・ウルフのことだから見事に読者を欺いているに違いない気もする(笑)。

ともかく、何を言わんとしているのかよくわからないにもかかわらず(!)

しっかり読ませてしまうところが凄い。

 

ゲイアン・ウィルスン「ラヴクラフト邸探訪記」

H.P.L.

エドワード・ヘインズ・ヴァーノンは

憧れのハワード・フィリップス・ラヴクラフトの故郷プロヴィデンスへ。

それというのも、とうに亡くなったはずのラヴクラフトが高齢ながら存命で、

エドワードを招いてくれたからだった。

当人曰く、病床を訪れた邪神の力によって癌が完治し、

長生きするうちに本が売れるようになったため、現在は裕福で、

稀覯本を収集している由。

その書庫に案内されたエドワードは……。

 

エド・ゴーマン「邪教の魔力」

The Order of Things Unknown

妻子と平穏に暮らす会社員リチャード・ハンロンには大きな秘密があった。

彼は若い頃から女性を殺すことを繰り返していたのだが、

動機は自分でもよくわからず、何ものかの力に操られているとしか思えなかった。

彼は二十七年ぶりに故郷を訪れ、旧知の盲目の老人に答えを求めた。

すると……。

これは面白い!(しかし、邦題はもうちょっと何とかならなかったのか……)

 

F・ポール・ウィルスン「荒地」

The Barrens

〈わたし〉ことキャサリーン・マッケルストンに

学生時代の恋人だったジョナサン・クレイトンから久しぶりに連絡が入った。

彼は民間説話を研究していて

〈わたし〉の故郷の伝承を調べるのを手伝ってほしいという。

荒地の奥にある、春分秋分の日にだけ出現する次元を超えた空間を探し出すのが

ジョナサンの目的だった。

二人は向こうの世界を垣間見たのだが……。

 

 

作者らが各々あとがきを添えているのだけれども、

おいらはHPLに心酔しているし一番理解しているゼ!

的な前のめり感が正直鬱陶しいっす(笑)まあ、楽しかったんだろうけどさ。

 

 

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