ちくま文庫『フラナリー・オコナー全短篇』㊤㊦読了につき、メモを整理。
あまりネタバレしない方向で……。
名前と作風は知っていたのですが、
一昨年、アンソロジー『母娘短編小説集』(平凡社ライブラリー)で
「善良な田舎の人たち(Good Country People)」を読んだのがきっかけで、
二冊同時購入→二年も積んでしまいました……💧
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『フラナリー・オコナー全短篇』上
短篇集『善人はなかなかいない』
善人はなかなかいない
a Good Man is hard to find
一人息子ベイリー一家――ベイリー,妻,男児ジョン・ウェズリー,
女児ジューン・スター,末子の赤ん坊――と同居する愛猫家のおばあちゃん。
彼らは車でフロリダへの旅に出ようとしていたが、おばあちゃんは気が進まず、
東テネシーの親類を訪ねたいと思っている。
脱獄犯がフロリダへ向けて逃走中との新聞記事を目にしたおばあちゃんは
息子たちの気を変えさせようと試みる。
おばあちゃんは独断で愛猫ピティー・シングをバスケットに入れ、
こっそり同乗させた。
途中、ダイナーで食事を取ってドライヴを再開するとアクシデントが起き、
赤ん坊を抱いたベイリーの妻が車外へ転落してしまった。
そこへ三人組の男の車が現れ……。
※言葉遣いの汚い子供らと、その(雑な?)養育・教育者である両親に比べて、
おばあちゃんは良識ある人物のようだが、
彼女が我が儘を押し通して旅のルートを変更させた結果、
思いがけぬ惨劇が出来(しゅったい)する、残酷な不条理劇。
自らを善人だと信じる老婆と、
悪人だが一本、筋の通ったはみ出しものの対比が鮮やか。
ちっぽけな自称善人なぞ一顧だにしない無慈悲な神の視点。
河
The River
早朝からチャイルドシッターに預けられた男児ハリー・アシュフィールド。
ハリーは信心深いミセス・コニンに連れられて説教師ベヴェル・サマーズのもとへ。
河の中、岸から離れたところで膝まで水に浸かった若くて背の高いサマーズ師は、
「イエスの血で作られた豊かな赤い河に苦しみを浸せ」と訴え、
まだ洗礼を受けていないというハリーの足首を掴んで頭から水に突っ込んだ。
母のために祈りたいと述べていたハリーだったが……。
※ネグレクトとまでは行かないまでも放置されがちだった幼児が
新たな人間関係と経験を得て目覚める話。
河は幼児に浸礼を施したのだった。
生きのこるために
The Life you save may by your own
隻腕の流れ者トム・T・シフトレットは、老女ルシネル・クレーターと
その娘で名前も同じ耳の聞こえないルシネルが暮らす農場に辿り着く。
彼は甲斐甲斐しく力仕事などをこなし、
娘ルシネルとの結婚を認めてもらいたいと申し出たが……。
※タイトルは、当時のアメリカの道路沿いの看板によく見られた
救うべき命は、あなた自身のものかもしれない(運転に注意せよ)に由来。
不意打ちの幸運
a Stroke of Good Fortune
夫と共に集合住宅で暮らす34歳のルビーは、
多産で苦労し若くして老け込んでしまった母を思うにつけ、
自分はそうなりたくないと考えていた。
手相見のマダム・ゾリーダに占ってもらったところ、
「長くかかる病気に見舞われるが、それによって思いがけない幸運に恵まれるだろう」
と告げられ……。
※妊娠という一つの事象が神からの罰と恩寵の二つの意味を持つという話。
聖霊のやどる宮
a Temple of the Holy Ghost
聖スコラスティカ山修道院付属女子中学の生徒、14歳のジョアンとスーザンは週末、
親類の家へ。
そこには彼女らより二つ年下の女の子がいる。
二歳しか離れていないが、ジョアンとスーザンは女の子を子供と思って侮っているし、
女の子はと言えば二人を愚か者と見なしているのだった。
町には共進会(畜産物の品評会)に付帯する祭りの時期が訪れていた。
深夜に帰宅したジョアンとスーザンは女の子に見世物小屋の話をした。
女の子は自分なりに考えを巡らせて、それがどういうことなのか理解しようと努めた。
※女の子はジョアンとスーザンの目撃談から、
人間の肉体は聖霊の神殿であるという聖書の教えを理解するに至った。
洗礼や堅信によって聖霊が宿る身体は神聖であり、
自分自身だけの所有物ではなく神の栄光のためにあるのだ――と。
※※何故か、この肝心な女の子には名前がない。
人造黒人
The Artificial Nigger
年老いたミスタ・ヘッドは孫のネルソンと二人暮らし。
妻の没後、娘が家出し、産まれた子と共に戻って来たが、
娘が突然死してしまったからだった。
ある日、ミスタ・ヘッドはネルソンを連れて列車に乗り、日帰り観光を試みた。
しかし、人種差別意識が強く、しかも世間知らずな彼らにとって、
短い旅は苦いものとなった。
※ショッキングなタイトルはヘッドとネルソンが道に迷って不安に駆られ、
混乱した揚げ句、彼らを救済するように(?)姿を現した石膏像を指す。
祖父と孫は、その無機物を通して連帯感を取り戻し、
更には神の恩寵に触れたかのような心持ちになったのだった。
※※都会の片隅で道に迷い、パニックから通行人と衝突してトラブルを引き起こした
孫を、祖父は「知らない」と言ってしまう。
これは聖書における「ペテロの否認」のメタファーと解釈される。
火の中の輪
a Circle in the Fire
牧場主ミセス・コープのもとへ、以前親がここで働いていたという少年と、
その友人たちがやって来て敷地の片隅に居座る。
ミセス・コープは厄介事はごめんだと思いつつ滞在を許可したのだが、
彼らに火事を引き起こされることを恐れていた。
※少年たちは昔ながらの古臭い環境を破壊し、
後に新しいものが出来ればいいと考えているようだが、
しっかりした信念は特になさそう。
もっと残酷な結末を想像していたが、そこまでひどい話ではなかった。
旧敵との出逢い
a Late Encounter with the Enemy
孫娘サリーと同居するサッシュ将軍は御年104歳。
サリーは必要な単位取得に時間がかかり、現在62歳で大学卒業を目前に控えている。
卒業式には正装した将軍が車椅子で列席する予定。
はてさて……。
※乾いたブラックユーモアが小気味よいが、結局誰が旧敵なのか、わからなかった。
田舎の善人
Good Country People
農場主ミセス・ホープウェルは32歳の娘ジョイの考えが理解できない。
ジョイは幼少期の事故で片足が義足、
哲学を学んで博士号を授与されている才媛なのだが、無神論者である点や、
母への反抗心から改名してハルガと名乗っていること、また、
障害のためもあって、ほぼ家に閉じ籠もりきりで他者と交遊を結ばず、
恋愛や結婚に至る気配が見えないことが、
古い価値観に従って生きる母をモヤモヤした気分にさせていた。
ある日、聖書のセールスマンだというスーツケースを引き摺った若者がやって来て、
マンリー・ポインターと名乗り、ホープウェル家で共に食事を取って帰ったのだが、
彼は夫人が見ていないところでジョイと短い会話をし、
デートの約束を取り付けていた。
ジョイはずっと年下に違いない、善良でしかも初心(うぶ)そうなマンリーを
からかうつもりだったが、逆に手玉に取られてしまい……。
※アンソロジー『母娘短篇小説集』にて
利根川真紀=訳「善良な田舎の人たち」を既読。
※※概要は春日武彦先生の盛大なネタばらしレビュー(エッセイ)で知っていた。
どの本だったか失念したが、
まっさらな状態で接してガツンと衝撃を受けたかったものだ。
強制追放者
The Displaced Person
ナチス・ドイツの迫害から逃れたポーランド人ガイザック一家が、
地域の教会の神父の斡旋で農場に勤めることに。
ガイザックは有能な働き者で仕事は捗ったが、
それによって割を食うことになった従業員が不満を募らせる。
経営者ミセス・マッキンタイアは
アメリカ移住のために身内を契約結婚させようと考えるガイザックに嫌悪感を催し、
解雇しようと思い立ったが踏ん切りが付かずにいた、そんなある日――。
※ミセス・マッキンタイアが、うっすらとした罪悪感・後ろめたさから
ガイザックをスッパリ馘に出来なかったことが悲劇の遠因になった、
とも考えられる。
初期作品
ゼラニウム
The Geranium
年老いたダッドリーは故郷を離れてニューヨークで暮らす娘のもとに身を寄せるが、
そこでの生活に馴染めない。
彼は古きよき時代や往時の慣習、雰囲気に囚われ過ぎているのだった。
彼の心を和ませるのは向かいの建物の張り出し窓に毎日決まった時刻に姿を現す
ゼラニウムの鉢植えだった。
その花の愛らしさが故郷や往年を偲ばす縁(よすが)になるからだったが……。
床屋
The Barber
保守的風土の町ディルトンで政治談議に加わるのは厄介だと思う大学の講師レイバー。
彼は自由主義者なのだが、床屋で髭を剃ってもらおうとすると、
店主や他の客に絡まれて気が休まらないし時間を浪費してしまうのだ。
頭の中では巧みに反論を構築できるものの……。
※保守とリベラル、都市部の知識層と田舎の労働者階級の対立といった構図は
現代のネット社会における議論の分断を思わせる普遍的な鋭さを持つ。
オオヤマネコ
Wildcat
盲目のガブリエル老人は人をも襲いかねないオオヤマネコの気配を察知し……。
※「もし顔を引き裂かれたら天国で神様に合わせる顔がない」と
恐怖を覚える老人の、間近に迫った死への恐れとの静かな格闘が描かれるが、
これも信頼できない語り手スタイルの一種か?
収穫
The Crop
作家を志すミス・ウィラートンは家事を終えると小説の構想を練る。
だが、男女のキャラクターが言い争いを始めてしまったため、彼女は物語に介入。
女性キャラクターを殴って退場させ、
自らが男性キャラクターのパートナーとして仕事をし、子育てをし……。
※ややコミカルなメタフィクション。
コントとして舞台化・映像化されても面白そう。
七面鳥
The Turkey
11歳の少年ララーは周囲にかっこいいところを見せたいと考えている。
年の離れた兄ヘインは15歳のときから素行が不良化し、
家族は手の打ちようがないと諦めているので、
ララーとしては兄とは違った様式で自己主張したいのだった。
偶然、七面鳥の死骸を見つけたララーは
それを自力で仕留めたことにして皆に自慢しようと思ったが……。
※不良グループに絡まれて悄然としたララーは何ものかが背後に迫る気配を察する。
それはどうやら、彼に偶然の恵みをもたらした神であるらしい。
列車
The Train
ヘイズは寝台車で旅に出た。
自分の車両の担当ポーターが、
旧知の老人キャッシュじいさんを若くしたかのような面差しと背格好だったので、
ヘイズは彼を、じいさんの息子に違いないと思って話しかけるが冷たくあしらわれる。
納得がいかないヘイズだったが、夜も更けて上段のベッドで眠ることにした。
すると……。
※亡母の死に際の様子を思い出したヘイズは列車の寝台を棺桶のようだと感じ、
死して尚、自分を束縛しようとするかのような母を恐れ、パニックに陥る。
『フラナリー・オコナー全短篇』下
短篇集『すべて上昇するものは一点に集まる』
すべて上昇するものは一点に集まる
Everything that rises must converge
ジュリアンは南部の旧家出身であることに誇りを持ち続ける母を
時代錯誤で鬱陶しいと思っている。
母がダイエット教室に通う際、付き添ってやるジュリアンだったが、
ある晩、母が、息子の目には奇体に映る帽子を被って出発した。
二人がバスに乗り込むと……。
※暴力や衝撃的な出来事を通じて、登場人物が抱える偽善や傲慢さが露わになる。
母を軽侮しつつ護衛を務める大卒ニート青年&
息子に「早く就職しろ」と思いながら傍でいろいろ手伝ってほしいから
突き放せない母は、共依存の関係にあると言えそう。
※※母はダイエット教室へ向かわず「おうちへ帰る」と繰り返すが、
それは現在の自宅でなく、
彼女にとっての古きよき時代を象徴する、かつての屋敷を指すのではないか。
※※※キリスト教神秘主義者テイヤール・ド・シャルダンの思想、
すべてが神の愛という一点に向かって上昇していく――という概念への
アイロニーなのだそうだ。
グリーンリーフ
Greenleaf
ミセス・メイは夫が遺した農場を切り盛りする未亡人。
二人の息子らはそれぞれに職を持ち、母を手伝おうとしていない。
ある日、雇い人であるミスター・グリーンリーフの家の牡牛が
メイ家の敷地に迷い込み、不快に思ったミセス・メイは、
その牛を射殺するようミスター・グリーンリーフに要請したのだが……。
※仕事が忙しい上に家事も一人でこなしているのに誰からも労ってもらえず、
息子たちからは軽侮の眼差しと言葉を浴びせられるミセス・メイは、
自分よりも貧しく愚かに違いないとグリーンリーフ一家を見下しつつ、反面、
結束が固いように思える彼らを――特に息子二人が親の仕事に協力していることを
――羨んでいた模様。
※※暴力的で理不尽なオチだが、それはミセス・メイにとって
諸々の桎梏からの解放という意味で思いがけない恩寵だったに違いない。
逆に言えば、彼女は、この究極の結末なしには
どこへも脱出することができない気の毒な人だったとも考えられる。
※※※牡牛の角が女性の肉体に陥入すること=不同意性交のメタファー、
という気がする。
恐らく欲求不満だったに違いない未亡人は
得も言われぬ歓びに包まれて果てたのだろう。
倉橋由美子「悪い夏」を想起した。
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森の景色
a View of the Woods
79歳の地主マーク・フォーチュンは偏屈な老人だが9歳の孫娘メアリにだけは優しく
彼女を心の底から慈しんでいた。
メアリは活発で生意気な可愛らしい少女なのだが、
時折父親の機嫌を損ねて折檻されることがあった。
しかし、彼女は繰り返される一時的な暴力を都度、甘んじて受け入れていた。
元々、婿ピッツを気に入っていないマーク老人にはそれが許せない。
老人はピッツへの嫌がらせの意味も込めて土地の売却を強行。
すると……。
※環境破壊への皮肉な警鐘、あるいは、
家族間の関係(序列)を無視したことへの報いとも受け取れるが、
結末は奇妙に荘厳。
長引く悪寒
The Enduring Chill
都会へ出て作家として成功したいと考えていた青年アズベリーは
自らの限界を悟って帰郷した。
彼は原因不明の悪寒に不安を覚え、
不治の病に違いないと思って遺書をしたためたのだが……。
※母や姉を知的な人間でないと見下し、
夭折するアーティストのイメージを重ねて自身を美化しようとした
高慢な青年の鼻が折られる話。
悪態をつかれても苦言を呈さず、
甲斐甲斐しく世話を焼こうとする子離れの出来ない母と、
文句を言いながらそれに甘える親離れの出来ない息子――を、
娘(アズベリーの姉で地元の小学校校長メアリ・ジョージ)が
冷笑的に眺める様が小気味よい。
※※訳者あとがきによれば、
アズベリーの年齢は作者フラナリー・オコナーが発病したのと同じ
25歳に設定されており、彼女は母親に看護される自分の戯画として
アズベリーのキャラクターを造形した由。
病気に由来する自己憐憫を許すまいとして
作中で自らを滑稽なまでに相対化した――とのこと。
※※※読んでいると頭の中で岡崎京子マンガとして物語が進行した。
作風に親和性の高さを感じた次第。
家庭のやすらぎ
The Comforts of Home
父を亡くし、母と二人暮らしのトマス35歳。
母は気の毒な身の上の娘さんを助けたいと言って、
軽犯罪で逮捕歴のある19歳のスター・ドレイクこと本名サラ・ハムを連れてきた。
軽薄な小娘に落ち着いた家の空気を掻き乱されることに立腹したトマスは
こんなとき亡父なら何と言い、どう対応するだろうか――と考えながら、
サラを排除すべく策を練る。
だが、生前の父と折り合いがよかったわけではないトマスにとって、
父の幻にあれこれ指図されるのも不愉快ではあった。
ある日、トマスは護身用の拳銃が持ち出されたと気づいて保安官に相談し……。
※他人に優しく、親切にしたいという
母の独りよがりな善意が反転する皮肉な話。
※※ここでも主人公の青年はとうに成人済でありながら実家(母親)から
離れられない子供部屋おじさんである。
母と息子は最も極端かつ残酷な形で共依存関係の殻を破壊したということか。
障害者優先
The lame shall enter first
妻に先立たれ、10歳の息子ノートンと暮らすシェパードは
カウンセリングの訓練を受け、少年院退所者のケアに当たっている。
片脚の不自由な14歳のルーファス・ジョンソンの世話を焼いてきたシェパードは、
親族との折り合いが悪いルーファスを自宅に同居させることが
ノートンの精神的な成長を促す手助けにもなるだろうと考えたが、
ルーファスは反抗的で、顔を合わせるや否やノートンをからかい、
シェパード家に不穏な空気を充満させる。
※タイトルは「障害者(足の不自由な者)が真っ先に天国に入る」という意味。
人間の傲慢な理性や上辺だけの善意よりも、
弱さや罪を自覚している者こそが神に救われるという
キリスト教的なテーマが込められている。
※※相手のためによかれと思って――と言いつつ、
本当は自己満足に過ぎないのだが――あれこれ手を尽くそうとしていた人が
ハタと我に返る瞬間(蛙化現象🐸❓)がリアル。
※※※亡母が遠い空にいると信じて、
夜毎、屋根裏部屋で天体望遠鏡を覗くノートンが痛ましい……。
啓示
Revelation
夫に付き添って病院へやって来たミセス・ターピンは
待合室で居合わせた上品な婦人と対話しつつ、
自分が神に支えられて幸福に暮らせていることに想いを巡らせて満悦する。
だが、その婦人の大学生の娘に罵声を浴びせられ……。
※人種差別及び階級意識が強く、自己満足に浸る高慢な女性が
予期せぬ出来事を通じて精神的な啓示を受ける。
パーカーの背中
Parker's Back
流れ者O.E.パーカーは信心深いサラ・ルース・ケイツと出会い、
互いに価値観が異なり、とても気が合うとは思えないにもかかわらず、
何故か心惹かれて結婚し、サラは妊娠する。
しかし、パーカーの心は満たされない。
彼は少年の頃、祭りの見世物で全身に刺青を施した男を見て感動し、以後、
自身の皮膚に少しずつ様々な意匠の刺青を入れてもらうようになった。
残された空間は最も自分自身の目で確認しづらい背中。
ある日、彼は遂に背中にキリスト像を彫ってもらうことにした。
その図像なら、
彼の趣味に否定的な妻でも好きになってくれそうだと思ったからだった。
※しかし、空虚感は一向に埋まらないのだった。
よみがえりの日
Judgement Day
妻に先立たれたタナー老人は結婚した娘のもとに身を寄せ、
慣れない都会のマンション暮らしに呻吟する。
何とかして故郷へ帰るため知恵を絞る老人だったが……。
後期作品
パートリッジ祭
The Partridge Festival
田舎町パートリッジでは毎年《つつじ祭り》が開催される。
それは作家志望の青年カルフーンの祖父が創設したものだったが、
彼には興味がないし、
その度に親類と顔を突き合わせてどうでもいい話を聞かされるのも嫌いだった。
だが、今年はいつもとは違った。
直前に大事件が起きたのだ。
カルフーンはパートリッジが抱えるのほほんとした異常さを白日の下に晒すべく、
病院に押し込められた加害者ウォルター・シングルトン老人と面会しようとする。
※町のシンボルである祭りのバッジの購入を拒否したウォルター・シングルトンが
私刑によって辱めを受けた結果、都合六名を銃撃し、殺害したにもかかわらず、
何事もなかったかのように祭りが始まったことに呆れるカルフーンと
幼馴染みのメアリ・エリザベス。
二人は互いに相手を低俗な人間と思い込み、反目するものの、
協力してシングルトン老人の許へ……。
※※序盤のどうでもいいようなお喋りが、
町中を覆う偽善・事なかれ主義、かと思えば異端分子の排除など、
嫌な事情を開陳する前奏曲になっている。
なにゆえ国々は騒ぎ立つ
Why do the Heathen Rage ?
一家の主が脳卒中で倒れたのだが、
後を継ぐはずだった息子ウォルター28歳にはまったくそんな気がなく、
母をやきもきさせる。
※Geminiによれば作者が構想していた長編の断片だったとか。
早逝した作家が気力・体力の続く限り命を振り絞って書いたらしい短編群。
家族に負担をかけざるを得ない病身の自分を甘やかさないよう、
厳しい態度で執筆に励んだ結果……なのか、
性別を反転させた二十代半ばから三十代半ばくらいの青年と母親との関係に
焦点を当てた作品が目立つ。
昔のアメリカの、しかも保守的な風土の町を舞台にした物語がほとんどなのだが、
何者かになりたいと考えながら研鑽の足りない子供部屋おじさんに
自立を促すのでなく、
ずっと自分の傍にいてくれた方がいいと考えていそうな母親の、
真綿でくるみ込むような愛の重さ――というのは普遍的な題材と言えるだろう。







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