メアリー・シェリー『フランケンシュタイン』を鼻祖として
脈々と語り継がれる人造人間の恐怖を扱ったホラー・アンソロジー全12編。
書肆鯖さんHPをウロウロしていたら目についたので購入、読了。
以下、ネタバレしない程度に各編について。
■ ロベルタ・ラネス Roberta Lannes 「完成した女(A Complete Woman)」
老女流作家が乳癌に。
入院した彼女を見舞った、その病院とは無関係の医師が告げた提案は……。
高階良子『地獄でメスがひかる』を連想。
但し、本作のキモは、
新しい美女の肉体が少しずつ造形されていく過程で
ヒロインのケアをする看護師(女性)との間に
特別な感情が芽生えるところ。
■ R・チェットウィンド・ヘイズ R.Chetwynd-Hayes 「創造主(The Creator)」
チャーリー・ブラウンロー青年は
祖父が酒浸りになった挙げ句に亡くなったのをきっかけに、
人造人間製造を思い立ち、埋葬前の祖父の遺体を利用することにした――
というホラーコメディ。
■ マンリー・ウェイド・ウェルマン Manly Wade Wellman
「追放猿人(Pithecanthropus Rejectus)」
人の手によって脳を強化され、
人間の子供と共に養育されて高い知性を得た類人猿〈コンゴ〉の悲劇。
■ リサ・モートン Lisa Morton 「パパの怪物(Poppi's Monster)」
母亡き後、小児科医の父と二人暮らしの少女ステーシー。
彼女は虐待されていた。
必死に感情を押し殺して耐えていた彼女は、ある日、
父が怪物を作っていることに気づく――。
■ バジル・コパー Basil Copper 「死の幸福論(Better Dead)」
映画狂いの夫ロバートの趣味への没頭と浪費に悩みつつ
不倫に走る妻ジョイスだったが、ある晩、遂に堪忍袋の緒が切れ……。
■ グレアム・マスタートン Graham Masterton
「母の秘密(Mother of Invention)」
年老いて尚、美しい、デヴィッド自慢の母カテリーナ。
しかし、デヴィッドは屋根裏部屋で古いアルバムを手にし、
両親の昔の写真に目を通して疑問を抱いた――。
■ エイドリアン・コール Adrian Cole
「フランケンシュタイン伝説(The Frankenstein Legacy)」
嵐の夜に外科医スタヴァートン博士を訪ねて来た
ターナーと名乗る怪しい若者。
彼は自分たちの“ボス”の頼みを聞いてほしいというのだが……。
ヴィクター・フランケンシュタインの相棒だった
ロバート・ウォールトン――二百年前、自身の被造物である怪物と
氷上で追いかけっこを繰り広げていたフランケンシュタインを救助した
探検家(!)――が、実は悪魔のような奸智に長けた人物で、
自分の脳をフランケンシュタインの手で若者に移植させて
延命を図り続けて来たとターナーは語るのだった……。
■ ピーター・トリメイン Peter Tremayne
「フランケンシュタインの猟犬(The Houndd of Frankenstein)」
青年医師ブライアン・ショーは
タルボット・トレヴァスキスの助手を務めて一般開業医の経験を積むべく
ロンドンからコーンウォールへやって来た。
しかし、トレヴァスキス医師は外出から戻らず、安否が気遣われていた。
村で不審人物扱いされているドイツ系貴族が
事情を知っているらしいのだが……。
ヴィクトール(ヴィクター)・フランケンシュタインが生き長らえて
妻(!)と落ち合い、
イギリスに隠棲して更なる恐怖の実験を繰り広げていた――という物語。
■ カール・エドワード・ワグナー Karl Edward Wagner
「引き波(Undertow)」
魔術師ケインの支配から逃れようともがく美少女デシリンは
船長マーサルに出会ってそれまでの経緯を述べたが――。
これはどこが人造人間モノなのかわからなかったが、
もしかして、デシリンがケインの被造物なのか??
Wikipedia英語版によれば“神秘の剣士”ケインを主軸とした
シリーズ物がある、とか。
また、巻末の作者紹介によれば、
本作は映画『去年マリエンバートで』の影響を受けているそうだが、
時間軸に沿った叙述でなく、
前後を行ったり来たりすること以外に共通点は見出せなかったなぁ。
ちなみに、K.E.ワグナーの短編は以前アンソロジーで2編読んでいる。
「夜の夢見の川」と「空隙」(『カッティング・エッジ』収録)。
「空隙(Lacunae)」にて、
主人公の画家に違法な薬物を与える売人の名もケインだが、
検索したところ、ケインは不死身なので現在まで生きのびており、
そのエピソードはモダンホラーの形式で語られている由。
ふむふむ。
■ ブライアン・ムーニー Brian Mooney 「チャンディラ(Chandira)」
老ローアンの回想。
彼は若い頃、植民地時代のインドで行政官を務めていた折、
自称二百歳の聖者アディタヤに出会った。
しかし、アディタヤは一般人が想像するような
禁欲的な生活を送っているわけではなく、何人もの女性と結婚、離死別、
再婚を繰り返し、過去の妻たちの特徴・取柄を列挙するのだった。
現在の妻チャンディラはヴェールで顔を隠していたが……。
これはゾワッと来る幻想怪奇譚。
■ ポール・J・マッコリー Paul J. McAuly
「誘惑の手(The Temptation of Dr.Stein)」
18世紀末ヴェネツィア。
妻と共に娘の喪に服すステイン医師だったが、まだ娘は行方不明なだけで、
どこかで生きているのでは……と、一縷の望みに縋っていた。
医師は気を紛らすべく夜警隊長ヘンリー・ゴラルの助手として随行し、
運河に浮かんだ死体の検視をしていたが、その頃、
街ではドクター・プレトリウスと名乗る怪しい人物が
見世物を行っていた――。
※プレトリウス邸の執事は
治療費と引き換えに屋敷の権利を放棄した旨を述べ、
ステインは彼の外貌に肺結核の痕跡を認めるが、
ヴェネツィアではその頃、この病が流行していたそうなので、
時代設定を特定することが出来た。
※※プロイセンを追い立てられるようにしてヴェネツィアへ移った
ユダヤ人ステインと、同じくエトランジェである英国人ゴラルの間に、
うっすらと共感・連帯の意識が芽生えているところが美しい。
※※※短編映画になっても面白そうな佳作。
■ ダニエル・フォックス Daniel Fox 「理性の眠り(El Sueño de la Razón)」
デザイナーベビーに与えられた試練と彼らの葛藤。
タイトルはゴヤ『理性の眠りは怪物を生む』より。
【追記】おっと、コイツを忘れちゃいかんかった……(笑)。