深川夏眠の備忘録

自称アマチュア小説家の雑記。

ブックレビュー『殺す』

J.G.バラード『殺す』読了。

物騒な邦題だが、原題は “running wild”。

最初からヒントが出ていた(笑)。

 

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SFではなくミステリ中編。

異常な事件の発生から二ヶ月後、

その分析を委ねられた精神科医の日誌という形式のフィクション。

 

バラード作品って、当人が医学を学んでいたためか、

医師が主人公、狂言回しのパターンが多いような。

 

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1988年6月25日(土)朝、

ロンドン郊外の高級住宅街で凄惨な大量殺人事件が起きた。

居住者とハウスキーパーや警備員ら32人が惨殺されたのだ。

リチャード・グレヴィル医師と、

補佐役となったレディング署のペイン部長刑事が犯人像を推理。

資料映像(防犯ビデオ他)を丹念にチェックし、

現場に足を踏み入れることによって浮かび上がった可能性とは――。

 

犯人にはすぐ見当がつくのだけれども、問題は動機。

精神科医の目線で縺れた糸をほぐしていくと、姿を現したのは……。

 

あり余るほどの親の愛情が

却って子供の首をジワジワ絞める真綿となってしまったのでは……

というのが語り手の推測で、

一読して、ああ、なるほどなぁ――と思ったのだが、

「親ガチャ」論が話題となる現代の若者には

ピンと来ない可能性もあるなと感じた。

 

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客観的な目線で“引いて”見たら楽園のような場所が、

中にいる当事者にはまるで地獄という図式から、

ゴールディング『蠅の王』夢野久作「瓶詰地獄」を連想し、

また、主人公がある程度真相に近づきはするものの

全容解明に至らないところは、

スタニスワフ・レム『捜査』風だと思った。

 

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映像作品になっても面白そう(絵面がエグイだろうけれど)だし、

岡崎京子の絵でコミカライズされたものを読んでみたい気もする。

 

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