アンドレ・ピエール・ド・マンディアルグ(1909-1991)
最晩年の掌・短・中編をピックアップした新訳版
『すべては消えゆく』を読了。
信頼という名の暗黙の了解が粉砕され、男を打ちのめす物語。
某か自分の思い通りに運ぼうと策を巡らし、上手く行くかに見えても、
最後は肉体的あるいは精神的に
ひどいダメージを食らう男性の姿が描かれているが、
彼らは衝撃を受けつつ、
もしかしたら最初からカタストロフを予見していたのでは……
という疑念も湧いて来る、
そんな“カッコつけた”道化師が演じる悲喜劇といった趣の、
捻じれたダンディズムに彩られた作品群。
■クラッシュフー(Crachefeu)
白水uブックス『薔薇の葬儀』(田中義広=訳)で既読。
タイトルは「火を吐くもの」の意で、spitfireの仏語訳。
ここでは英国トライアンフ社の2シーターオープンカーの
スピットファイアを指す。
国有林の視察が職務の技術長、森林管理官ブラン・ド・バリュは、ある日、
愛車クラッシュフーで森を走っていて、自転車を漕ぐ少女に遭遇――。
彼女の不吉な夢が現実化し、彼を打ちのめす。
突発的な性愛と理不尽な死の交錯という不条理劇。
■催眠術師(L'Hypnotiseur)
港町で《四百羽の兎》という名のバーに入ったティテュス・ペルル。
ホステスに勧められるまま強い酒を呷り、酩酊したが……。
■すべては消えゆく(Tout disparaîtra)
パリの地下鉄で出会った男女、
ユゴー・アルノルドとミリアム・グウェンは
恋愛や性に纏わる会話を、衒学趣味を交え、
オブラートにくるんだような芝居がかった物言いで繰り広げつつ、街を歩く。
散々焦らされたユゴーはとうとうホテルへ行こうと切り出したが、
ミリアムはもっと特別な場所があると彼を誘い……。
タイトルは地下鉄構内の《Tout disparaîtra》
=「全品一掃処分」というセール広告の決まり文句に
由来することが途中でわかるので、
男女が互いに関係を深めると見せかけて回りくどい話を続けながら
結局何も起こらないのかと思って読み進めたら、
途中でガラッと様子が変わって淫蕩かつ残酷な展開になり、ギョッとした。
ミリアムが電話の相手に「はい……はい……」と返事するだけ(p.218-219)の
数行がシュール!
『オートバイ』を再読したい。
ついでにその映画版も観てみたい(かなりイメージ違う気もするが……)。