『アウトサイダー』読了。
最も好きな作品は既刊に収録されているので、もう買わなくてもいいか、
創元推理文庫でほぼ既読なのだし……と思ったものの、
毒を食らわば皿まで――と考え直して購入、読了。
■ アウトサイダー(The Outsider,1926)
朽ちかけた古城をさまよう語り手〈私〉には家族や養育者の記憶がなく、
ただ自分自身の現在があるのみ。
〈私〉は朦朧とさまよい出て、宴の気配に引き寄せられたが……。
読みやすい新訳のお陰で語り手の孤独と絶望がヒシヒシ伝わってきた。
■ 無名都市(The Nameless City,1921)
語り手〈私〉はアラビアの砂漠で遺跡に足を踏み入れ、
壁画に魅入られたが、そこには奇妙な痕跡も。
そもそも、何故この通廊は這って進まねばならないほど天井が低いのか。
(どうやって手記を残すことが出来たのかという謎が残るが……)
■ ヒュプノス(Hypnos,1923)
タイトルはギリシャ神話の眠りの神。
彫刻家である語り手〈私〉は駅で倒れていた美丈夫を助け、自宅に招いた。
二人は麻薬に耽溺し、夢を見、別の世界を目指したが、
実生活においては窮乏し、衰弱し、どんどん老けていった。
人の領分を超えようとした男に邪神が罰を与えた――と捉え得る話だが、
どこまでが小説内現実であり、また、どこからが妄想なのか判然しない物語。
■ セレファイス(Celephaïs,1922)
都会の喧騒に倦んだ孤独な青年の、夢の世界への没入。
しかし、美しい都の端にはインスマウスの崖が……。
■ アザトホート(Azathoth,1938)
原文約500語の断章、執筆は1922年。
タイトルはクトルゥフ神話に登場する(架空の)神性を指す名称。
結実しなかった長編の構想メモ?
とはいえ、幻想的な散文詩として玄妙な味わいがある。
北極星を巡る強迫観念と夢の世界。
■ ウルタルの猫(The Cats of Ulthar,1920)
ウルタルという名の町で頭のおかしい夫婦が
敷地に入った猫を捕らえては殺していたが、遂に悪行の報いを受けた。
■ べつの神々(The Other Gods,1933)
「ウルタルの猫」に登場した宿屋の幼い息子アタルが成長した姿で、
賢人バルザイと共に神々の姿を見ようと登攀する。
行ってはいけない場所だと言われたら
尚更覗いてみたくなるのが人の性(さが)。
■ 恐ろしき老人(The Terrible Old Man,1921)
周囲に不気味がられる謎めいた裕福な老人宅に押し入って
金品を奪おうと考えた三人組だったが……。
返り討ちに遭う強盗三人組が
作者の人種差別意識が批判されているという。
■ 霧の高みの奇妙な家(The Strange High House in the Mist,1931)
恐ろしき老人、再登場。
付近の住民に恐れられる、絶壁の上に建つ奇妙な家と、そこで暮らす老人。
妻子と共に引っ越してきた哲学者トマス・オルニーは好奇心に駆られ、
崖を攀じ登って老人と対面したが――。
■ 銀の鍵(The Silver Key,1929)
夢想に取り憑かれたランドルフ・カーターは
五十代になってから自らの家系に伝わる「鍵」の存在に思い至り、
それを探し出して廃墟となった屋敷を訪れた。
読者が「あれ?」とページを捲る手を止める瞬間が訪れるのだが、
何事もなかったかのように、シレッと話が続くところがいい。
■ 名状しがたいもの(The Unnamable,1925)
彼の書いた小説を巡り、恐怖と想像力について、
あるいは科学的に説明のつかない奇怪な事象について意見を交わし、
この場所がまさに件の小説の舞台なのだと告げた途端、
二人は意識を失うほどの衝撃を受けた――。
■ 家の中の絵(The Picture in the House,1921)
1896年11月、〈私〉は系図学の資料を求めて自転車で旅をしていて、
雨宿りのために廃屋と思われる屋敷に入り込んだ。
が、実は住人が二階で昼寝をしており、気配を察して下りてきたので、
〈私〉は無断で立ち入った非礼を詫びた。
家の主は珍客に気を悪くした風もなく、強い訛りのある話し方で、
テーブルに置いた稀覯本について語り始めた――。
品川亮監督による『H.P.ラヴクラフトのダニッチ・ホラーその他の物語』に、
この作品の立体造形アニメーションも収録されている。
■ 忌まれた家(The Shunned House,1928)
かつてエドガー・アラン・ポーの散歩コースに位置していたと思われる
一角に建つ、とある家。
居住者がことごとく不幸に見舞われ、
怪死したとの記録を繙いた語り手〈私〉は
叔父ホイップル博士と共に調査に乗り込んだが……。
歴史上の記録を脚色して盛り込んだという怪異譚。
異常事態を吸血鬼の仕業かと推理するところが面白い。
■ 魔女屋敷で見た夢(The Dream in the Witch House,1933)
大学生ウォルター・ギルマンは〈魔女屋敷〉と綽名される、
呪われていると評判の屋根裏部屋を借りて住むことになった。
以後、彼は強迫観念に駆られ、夢遊病の発作を起こし……。
ナサニエル・ホーソ-ンの未完作『セプティミウス・フェルトン』の
影響下にあるとの研究あり。
( ˘ω˘ ) .。oO(霞を鱈腹食らって胃が膨らんだ気分を味わっているゾ……)