深川夏眠の備忘録

自称アマチュア小説家の雑記。

ブックレビュー『クトゥルー怪異録』

うろ覚えですが、多分

懐かしの大好きなドラマ『インスマスを覆う影』を久しぶりに視聴した後、

この本の存在を知って中古で購入したのではなかったかと。

 

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インスマスを覆う影 [VHS]

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クトゥルフ神話をモチーフとするホラーあるいはミステリ短編のアンソロジー

文庫版。

執筆者が各々その折とても楽しんで書いていたに違いない、

そんな様子が目に浮かぶ、愛好家のためのコレクション。

以下、各編について、例によって基本ネタバレなしで、つらつらと。

 

 

佐野史郎「曇天の穴」

考古学者・愛巧太(あいこう・ふとし)は学会に出席する準備の最中、

奇妙なものを目にした。

周囲に違和感を覚えつつ、『ネクロノミコン』他、

ミスカトニック大学図書館秘蔵の稀覯本テキストを収めた

ディスク(フロッピーか?)のファイルを夢中で開いていった彼は……。

 *

ぎこちない筆致(失礼!)ながらも

ランドルフ・カーターをボストンの歴史家として登場させた、

名優の手になるヘンテコなホラー。

 

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小中千昭「蔭洲升を覆う影」

脚本家である御当人が担当したドラマ『インスマスを覆う影』のノベライズ作品。

ラヴクラフト "The Shadow Over Innsmouth"(1936年)の本歌取り

舞台は日本の(架空の)僻村・蔭洲升(いんすます)。

主人公はカメラマン平田拓喜司(ひらた・たくよし)34歳。

取材旅行に出た彼は鄙びた不気味な海辺の町で

異様な住民たちに嫌悪感を覚えたが、

唯一まともな人間に見える美しい浴衣姿の女性に心惹かれ……という具合に、

原典にはない色恋沙汰が絡む。

平田が降り立った無人駅が赤牟(あかむ)で隣が王港(おうみなと)なのだが、

ドラマでは王港にKINGSPORTの英語表記があって「細かい!(褒)」と

唸ったものだった。

 

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高木彬光邪教の神」

名探偵・神津恭介シリーズの一つ。

1956年、まだ日本ではほとんど知られていなかったクトゥルー神話をモチーフに

書かれたミステリ。

邪神像を巡る連続殺人事件の謎。

チュールーと呼ばれる神を崇める者の間で珍重される神像と対価が行き来する間に

殺人が起こる。

 

 「チュールー……チュールー……」(p.80)

 

 「やれやれ、あのミスター・チュールーと一週間もつきあっていた日には、むこうが松沢へ行くか、こっちが行くか、二つに一つだわい」(p.96)

 

 ↑ このフレーズ ↑ 現在の常識(良識)ではアウトでしょ!!

 松沢病院呉秀三ドグラ・マグラ の三位一体イメージの

 悪弊だったんでしょうね、多分。

 

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山田正紀銀の弾丸

クトゥルフを呼び寄せる者を抹殺することが真の目的で、

表向きは国際友好団体という《HPL協会》の工作員である榊は、

同じく工作員の青木と共に任務に就いた。

ショービジネスのプロモーター壬生織子が芸術の祭典に偽装して

邪神を召還するのを防ぎたい彼らが取った方法は……。

 *

タイトルはHPL協会が邪神召還を阻止するために用いた手段の比喩。

一般にハードボイルドと呼ばれるカテゴリに属す作品ですかね。

文体が苦手なタイプで好きになれない。

また、意図的にステロタイプ感を醸したのだろうけど、

いかにもありがちな、くたびれた中年一歩手前の男が主人公だとか、

敵が、大抵の男なら速攻で「イッパツお願いしたい」(←イヤッ下品ꐦ)と

思ってしまうような蠱惑的な美女だとかいう設定にゲンナリしたぞなもし。

 

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菊地秀行「出づるもの」

12月の網走。

師団長・村越中佐は秘書でもある副官の剣(つるぎ)中尉らと共に任務に就いた。

一同は死刑囚を生贄にしてそれの到来を待った――。

 *

待つまでもなく、とっくに潜んでいたそれ出づるという話。

何となく

ジョン・W・キャンベル・ジュニア「影が行く」 "Who Goes There?"(1938年)

すなわち『遊星からの物体X』(映画は未見だが……)を連想した、何となく。

 

 

友成純一「地の底の哄笑」

福岡県筑豊地方で爆発事故が起き、地域の実力者・郷村邸が全壊した。

お盆だったため、屋敷には親族が集まっており、38人が亡くなった。

唯一の生存者は郷村家の次男・春樹の友人であるイラストレーター堀田和磨。

彼は病院で手当てを受け、事の一部始終を手記として綴ったが、

医師は彼が精神的に錯乱しており、内容のほとんどは特異な妄想と見なしている由。

 *

堀田の記憶の中で、非嫡出子であるという春樹が

(異形と化した)亡父に向かって「オフクロって、どんな奴だったんだ」と

訊ねる条でラヴクラフト「ダンウィッチの怪」が脳裏をよぎったが、

唯一の生存者による信頼できない手記という体裁は、クラーク・アシュトン・スミス

「ヨー・ヴォムビスの地下墓地」"The Vault of Yoh-Vombis"(1932年)風かな、と。

【 ↑ この作品 ↑ も上掲のアンソロジー『影が行く』収録】

郷村家の蔵にあった長持の表面に彫られた言葉が つぁとぅぐあ(p.233)

だったということでもあるし……。

もっとも、地下墓地にはツァトゥグァは登場しませんけれども。

 

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佐野史郎×菊地秀行 両氏の対談も楽しい。

お二方とも本当にクトゥルフ神話が大好きなんだなぁ。

 

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