『江戸川乱歩トリック論集』(中公文庫)を読了。
雑誌に連載した推理小説に関する評論エッセイをまとめたもので、
特にミステリにおけるトリックを俎上に載せている。
Ⅰ 類別トリック集成
七百数十種の欧米及び日本産ミステリのトリック例の分類・整理。
犯人・犯行時間・凶器・隠し方・暗号・動機・犯罪発覚の手掛かりについて。
【急に大食になる】(トリッキイな犯罪発覚の手掛かり)自室に犯人をかくまって隠しているので、自分の食事を分けてたべさせる。随(したが)って主人公は急に大食になったように見える。大食になったら誰かをかくまっていると考えるのが探偵の常識。(p.83)
この項を目にした瞬間、飲んでいたお茶を噴いてしまいました(笑)。
Ⅱ 探偵小説の「謎」――トリック各論
探偵小説の妙味、奇矯な着想、意外な犯人、異様な凶器、密室トリック、
死体や物品の隠し方、一人二役、風変りな犯罪の動機、
犯人の心理状態、法医学との関係、独特のスリル感などについて。
巧妙複雑な犯罪を描いた長篇探偵小説の犯人は多くの場合一種のニヒリストである。(p.227 探偵小説に現われたる犯罪心理)
Ⅲ トリック各論・補遺
毒殺の話、微細な証拠を検証して事件の真相に辿り着いた例、
犯罪における自動車の悪用。
Ⅳ トリック総論
・探偵小説のトリックの面白みと、それを超えた先にあるものの探究、
行き詰まり感の否めない現状を打破してくれる天才待望論。
・横溝正史『本陣殺人事件』評。
「本陣」へのダメ出しに、乱歩の横溝に対する愛を感じた💕
資料
・探偵小説を語る――対談・横溝正史
・トリック分類表
トリックの内容を読んで、
誰のどの作品か思い出して当てるというクイズが楽しめる。
その後も無数の新作ミステリが世に現れたわけだが、
トリックのおおよそはこの本に列記されたパターンに当て嵌めて説明され得る模様。
ともあれ、面白い探偵小説をたくさん書きたい、
他の作家にもどんどん書いてもらいたいという乱歩の情熱が伝わってきた。