吉村昭『破船』読了。
購入したのは新潮文庫2022年5月(改版)35刷。
ひと月ほど前、どこかで絶賛レビューを読み、興味を持ったので購入。
しかし……そのレビューを最後まで読まなければよかったと後悔。
何が何だかよくわからない状態の方が終盤の衝撃が大きかったのでは……と。
つまり、当該レビューはガッツリとネタバレしてくれていたのです(怖)。
もっとも、上掲の写真のとおり、
購入時点で帯の煽り文句を読んだら、ネタバレレビューに接しなかった人でも
オチには見当がつくはずで……(あ、ゴメン💧)。
作者の名前はぼんやり見知っていた程度。
で、(未読だけど)かの有名な『羆嵐(くまあらし)』の作家か、
そうだったのかと今回初めて認識(←ぼんやりしすぎ)。
さて。
藩という語が出てくるので、設定は江戸時代と思われる。
九歳の少年・伊作(いさく)の目に映る、生まれ育った海辺の寒村。
三人称一視点で淡々と進行する、さして長くない物語は、
容赦なく貧しい僻村の厳しい状況を活写する。
飢えから家族を守るため、
性別問わず若くて体力のある者は年季奉公という名の身売りで村を離れていく。
伊作の父も三年契約で峠を越えた。
父が報酬を得て達者で帰るまで、伊作は母と共に幼い弟妹を守らねばならなかった。
伊作は漁に出、民(たみ)という名の少女に恋心を抱き、製塩にも携わり、
弟・磯吉に漁の手ほどきをし……やがて、行事を通して村落の秘密に接する――。
過酷な環境なので、
九歳ともなれば一人前の労働力としてアテにされるのは致し方ない……
とはいえ、母を含め、大人たちが基本的に
子供に対して優しくないのが読んでいてツライ(そういうの苦手💧)。
唯一ホッとするのは、年季奉公を終えて帰還した、
苦役の中のアクシデントで片脚を切断するに至った男性と
伊作が浜で対話する場面(⑥章の終わり近く)。
この男性が、とても穏やかな口調で、
伊作の父が立派に務めていることを伝えてくれるのだけど、
伊作自身の働きをも評価してくれている風で。
終盤の大惨事は、
村民一同が長年に渡って積み重ねた罪業に対する罰のようにも受け取れる。
この部分はまっさらな状態で読みたかったなぁ。
ネタバレ情報のお陰で凄惨さが薄まってしまった気がするよ……。
ともかく、
観察者が(少し安全な場所に退いて)見たままを記録したかのような筆致で、
内容にジャストフィット――だと思うのだが、
不遜な言い草だけども、もし私がこれをアレンジするとしたら、
民(たみ)ちゃんの一人称で書くと思います。
働き者で可憐な民ちゃんが家を出ていくまでに綴った村のありさま、
仕事および行事の数々、
伊作と佐平が二人して私に熱を上げているようだけど、
足の爪が剝がれちゃったとき、
薬になる弟切草を摘んで寄越してくれた伊作の方がポイント高いかな……
なんて考えるところだとか(笑)。
ところで、例によって脱線しますけど、
そしてまた、例によってネタばらしっぽい箇所は白文字にしますので、
かめへんかめへん、という方だけドラッグ反転でお読みくださいまし。
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村に恵みをもたらす船が来たと思ったら、様子が変。
乗組員は皆、死んでいて、しかも、
何故か一様に赤い着物・帯・足袋を纏っていた――
というくだりが起承転結の転でして、そこで、ふと、
内田百閒の掌編「疱瘡神」(『冥途』収録)を思い出して読み返したのです。
その紙は暗くてよく解らないけれども、何だか真赤な色をしているらしかった。私は吃驚して軒の下を飛び退いた。
「疱瘡だ」と私が叫んで、逃げ出そうとした。
するとまた向こうからお葬いがやって来た。
疫病除けのお札が赤い、という。
で、少し調べたのですが、赤という色が病魔を祓うと考えられていたそうで。
小説『破船』の中では、それが皮肉な結果をもたらすのですけれども……。
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