深川夏眠の備忘録

自称アマチュア小説家の雑記。

ブックレビュー『最後の宴の客』

ボルヘスの編纂による『バベルの図書館』叢書29.
ヴィリエ・ド・リラダン『最後の宴の客』、古書を購入し、読了。
今回も良心的価格で助かりました。
 
象徴主義の代表的人物の一人、フランスの小説家・詩人・劇作家、
ジャン=マリ=マティアス=フィリップ=オーギュスト・ド・ヴィリエ・ド・リラダン
伯爵(1838-1889)の短編からボルヘスが選りすぐった作品集。
 
収録作は、
 ①希望(La torture par l'espérance)
 ②ツェ・イ・ラの冒険(L'aventure de Tsé-i-La)
 ③賭金(L'enjeu)
 ④王妃イザボー(La reine Ysabeau)
 ⑤最後の宴の客(Le convive des dernières fêtes)
 ⑥暗い話、語り手はなおも暗くて(Sombre récit,conteur plus sombre)
 ⑦ヴェラ(Véra)
 
サラゴサ宗教裁判所の牢に囚われたユダヤ人のラビ、
 アセール・アバルバネルに逃走の千載一遇のチャンスが訪れたが……。
 彼は「希望という名の拷問」に処せられていたと悟る。
 
②狡猾・吝嗇・残忍な専王チェ・タン太守の宮殿にやって来た
 青年ツェ・イ・ラは、菩薩の加護によって
 「謀叛を企てる者があれば、太守の瞼にその者の名が浮かぶ能力」を
 授けられると告げ、交換条件を挙げた。
 要するに、太守の娘リ・ティエン・セに一目惚れし、
 結婚させてくれと申し込んだのだが……。
 
③宗教者でありながら賭けトランプゲームに興じるテュセールの哲学と闘い方。
 彼が最後に賭けたものは……。
 
④多情な王妃イザボー・ド・バヴィエール(1370年頃~1435年)の逸話。
 若い愛人の一人であるモール司教代理が自分以外の女性に執心していると知り、
 嫉妬したイザボーの奸計。
 終盤に記された「車刑」が何なのかわからなかったので調べてのけぞった。
 

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⑤186*年のカーニヴァルの夜、

 「私」と「友人C…」はオペラ座で出会った若い女性三人組と意気投合し、

 酒宴を催すことになったが、

 もう一人男性がいた方が都合がいい――といったわけで、

 これまた偶然居合わせた30代半ばの男に声をかけたが、

 彼「サチュルヌ」こと「フォン・H…男爵」と「私」は、

 かつてドイツ旅行中に行き会ったことがあった。

 ところが、豪華な夜食を前に男爵の話を聞くうち、

 「私」はもっと別の場所で既に彼を見たはずだと思い至る……。

 ※ある種の偏執狂の話。

 

⑥劇作家の夜食会にて、「D…氏」は立会人になった、ある決闘について語った。

 青年の死は悲劇に違いないが、物語としては甚だ陳腐としか言いようがなかった。

 しかし、後日「私」が知人に「D…氏」から聞いたままを伝えると……。

 凡庸な現実の事件は口伝てに語られることで非凡なストーリーに昇華した。

 ちなみに、ボルヘスの序文によれば、

 これはリラダン自身の「残酷物語」のパロディらしい。

 

⑦愛し合うダトール伯爵とヴェラ夫人だったが、夫人は愛の営みの最中に死亡。

 妻の死を認められない伯爵は先祖伝来の廟の扉を施錠し、鍵を投げ捨てた。

 彼は老いた召し使い一人を残して使用人に暇を出し、

 一切の交際を絶って亡妻の幻影と暮らすことを選んだが……。

 ※脱線するが、中井英夫『薔薇への供物』自作解説「薔薇の自叙伝」には、

  中井氏がこの作品に因んで交際相手の女性を

  ヴェラと呼んでいた(1967年頃)ことが記されている(p.200-204)。

 

薔薇への供物 (河出文庫)

薔薇への供物 (河出文庫)

 

 

Qui verra Véra l'aimera ――ヴェラを見た人は彼女が好きになる――

 

 

時代が古いせいもあるのだろうが、

雰囲気は掴めるし、とても好みに合うのだけれども、

「希望」と「ヴェラ」以外はオチがストンと胸に落ちてくれず、

何度もページを捲り直す羽目になった(作者の思うツボか?)。

昔、長編『未来のイヴ』を面白おかしく楽しんだので、

短編集は楽勝だろうと考えたのが甘かった。

 

未来のイヴ (創元ライブラリ)

未来のイヴ (創元ライブラリ)

 

 

新訳も出ましたね。

 

www.amazon.co.jp

 

 

……あれ?

もう紙の本は品切れか??

 

ところで、昔、中井英夫氏が、

リラダンは斎藤磯雄先生の翻訳しか認めない!

それも旧字・旧かな遣いのままでなければな!!

――といった趣旨のコメントを発していたと記憶しているが、

出典を失念した。

どこで読んだんだっけ……。

 

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