文庫化されて飛びついた、
架空の本の書評群という体裁のメタフィクション短編集『完全な真空』(1971年)。
順序が逆で、
後から刊行されていた《実在しない未来の本の序文集》『虚数』(1973年)を
先に読んだので、多分ついていけるだろうと思って(笑)。
さて、『完全な真空』、収録は全16題。
特に面白かったのは「親衛隊少将ルイ十六世」と「てめえ」(笑)。
前者はナチスの元親衛隊将校ジークフリート・タウドリツが第二次世界大戦後、
アルゼンチンへ逃れ、パリシアと名付けた奥地に王朝を築く――という、
コンラッド『闇の奥』を想起させる筋立ての小説評。
実在するなら是非読んでみたいと思ってしまった。
後者曰く、作品の原題はフランス語「toi」。
著者レイモン・スーラは作中で
読者に語りかけるのではなく“読者について”語ろうとしたのだと述べる。
野心的なアイディアではあったが、その試みは失敗に終わった、
何故なら著者が成し得たのはアクロバティックな言語上の曲芸に過ぎなかったから。
書き手の読者に対する反乱の形式は沈黙以外にあり得ないのだと、評者は語る。
いずれにしても、訳者の一人、沼野充義先生の解説にあるとおり、
レムは架空の書物を書くことで、
作家と批評家という二つの相反する精神を結合させたのだろう。
作中に《書評家》の意識が織り込まれることで成立する
メタフィクションの魔術を堪能した。
……少し頭の中がパンパンになってしまった(笑)。