深川夏眠の備忘録

自称アマチュア小説家の雑記。

映画鑑賞記『顔』

阪本順治監督の2000年の映画『顔』を鑑賞。

実際に起きた事件を下敷きにしつつ、ストーリーは完全オリジナル。

去年BS松竹東急でオンエアされたことに気づくのが遅かった……のだけど、

またやってくれたので、今度は忘れず録画しまして。

これもクライムサスペンスかなぁ、どうもこういうのが好きみたいなんだなぁ。

 

 

時は1995年。

主人公・吉村正子は現代のボキャブラリーで言うところの子供部屋おばさん。

家業を手伝っているのでニートではない(正子ver 1.0)。

正子はクリーニング店を切り盛りする母の突然の病死から、

元々折り合いの悪かった派手好きで美しい妹・由香里と言い争いになり、

ものの弾みで殺してしまった(編みかけの赤いマフラーもしくはショールで……)。

長年に渡って蓄積された鬱憤が爆発した結果と見えるが、直接のきっかけは

由香里が無断で正子の愛読書である『カトリーヌの涙』(架空のコミック)に

目を通してdisったことと思われる(多分ね💧)。

正子は近所の人々が母のために包んでくれた香典袋をバッグに詰め込んで

飛び出した――。

 

35歳という年齢の割に世慣れていない正子は理不尽にヒドイ目に遭わされつつ、

逆に親切にしてくれる人たちにも出会って、何となく居場所を得る(正子ver 2.0)。

当然、指名手配されているのだが、

これといった交友関係を持たなかった正子の写真といえば、

母が整理してくれていたアルバムの中に残るものだけ、そして、

彼女は抜け目なく(?)それを持ち出して(極めて無造作に)処分していたので、

警察はクリーニング店周辺の人たちに聞き込みをして作成した似顔絵を

公開することしか出来なかった。

それでも捜査の手が迫る気配を察知すると、正子は逃げ出して身の置き所を変え……。

 

人間関係の構築が不得手な正子は、最初のうち、たまたま接触した人に

普通に謝ったりお礼を言ったりすることもままならないほどだったのだが、

流れ流れて別府のナイトクラブに落ち着くに至って、

愛想よく接客が務まるようになり、アパートを借りて自活し、

商店街で買い物をしては

顔見知りと自然に挨拶を交わすまでになるのだった(正子ver 3.0)。

殺人を犯して逃亡した結果、一人前の大人になることが出来たという、

何とも皮肉な――ブラックジョークのような物語。

ベースになっているのが福田和子事件なので、タイトルのというのが

ひょっとして主人公が途中で整形手術を受けることを指しているのか……

と思いながら観ていたのですけども、違いました。

時間の経過・環境の変化と共に、

正子の表情が活き活きと晴れやかになっていくのですよね。

実に清々しい(いや、犯罪者やねんけど)。

 

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そして、最終盤。

辿り着いた離島の美しい祭の情景が目に沁みまする。

キツネ踊りの子供たちが愛らしく艶めかしい。

 

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オチには途中で見当がつきました(伏線があったので)。

子供の頃に生き別れた父(女を作って出ていったとか何とか……)から

女の子は●●するものではない、女の子は■■がよい、等々と浴びせられた

数多のクソバイスを真に受けて生きてきた正子が呪縛から解き放たれるのですよ。

頑張れ!

と、エールを送りたくなりました(犯罪者ねんけどな……)。

 

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ブックレビュー『心は孤独な狩人』

カーソン・マッカラーズ『心は孤独な狩人』(The Heart Is a Lonely Hunter,1940)

読了。

キリのいいところで休止して別の本を先に読む(3冊!)という暴挙に出たので

年を跨いでしまった……。

 

 

昨年『マッカラーズ短編集』を読んで感銘を受けた後、

この本の文庫版が発売されたので購入したのだった。

 

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1930年代末のアメリカ南部、いわゆるディープサウス中央部の町で繰り広げられる

群像劇。

タイトルはフィオナ・マクラウドの詩『孤独な狩人』の、

わたしの心は孤独な狩人、寂しい丘に狩りをする

という一節に由来するとか(Wikipedia情報)。

 

【主な登場人物】

 ミック・ケリー:下宿屋を営むケリー家の娘。

 バーソロミュー・ブラノン:ケリー家の近くの《ニューヨーク・カフェ》店主。

 ジョン・シンガー:ケリー家の下宿人の一人。聾啞の青年。

 ジェイク・ブラント:遊園地の機械保守を務めるアナーキスト

 ベネディクト・メイディー・コープランド:人々に尊敬される医師だが気難しい。

 

幼い弟たちの面倒を見ながら夜更けにカフェでタバコを買おうとする少女ミックと、

そんな彼女を窘めもせずタバコを売ってしまう店主バーソロミュー。

彼はミックに特別な視線を注いでいる。

だが、そんなことには気づかないミックは

新しい下宿人のシンガーさんに関心を寄せる。

ジョン・シンガーは聾啞者なのだが、手話と読唇術でコミュニケート出来、

必要に応じて筆談も行っていた。

自らは発話せず、黙って周囲の人々の言葉を読み取る、

物腰の柔らかく知的な雰囲気を漂わせるシンガーさんに皆が好意を抱いた。

しかし、彼の心を占めているのは、離れた町の病院に入院中の親友

スピロス・アントナプーロスだけだった……。

 

という具合に誰かが誰かを愛しているのだが、どうにも噛み合わない、

もどかしさに満ち溢れた物悲しいお話。

どんなに親しく、打ち解けたように見えていても、

実は人間は皆それぞれに孤独なのだ――というディスコミュニケーションというか

精神的な断絶の物語。

ピアノを弾きたい、作曲したい、ピアニストになりたい……と、

才能の片鱗を窺わせつつ大きな希望を抱くミックの前に立ちはだかる

家庭の経済問題という一大事。

家計を助けるために働かねばならない、すると、

一人きりで夢想に耽って創作に打ち込むことが出来ない……という事態が

何とも切ない。

そんな彼女の心の支えがシンガーさんだったのだけれども……。

ケリー家に打撃を与えた事件に銃が絡んでいるところが、いかにもアメリカらしい。

(子供の手が届くところに銃器を置いておくなよ大人はよꐦ)

少女が成長して否応なく大人の女性に近づいていく過程には

決まって痛みが伴う、そんなことを思い出させる、

ちょっぴり読むのが辛い、けれども読み切らずにいられない作品。

終盤、仕事帰りに《ニューヨーク・カフェ》で一服するミックは

今後の人生について腹を括ったかのようで、頑張れと声をかけたくなってしまった。

でも、エンディングって第二次世界大戦開戦直前の頃なのよね……。

 

ところで、読んでいて一番「ウッ」と思ったのは、

コープランド医師の娘でケリー家の料理番を務めるポーシャが

ミックに向かって放った言葉。

 

そして本を読めば読むほど、頭を煩わせるものが次々に増えていくんだ。本を読みすぎて、頭の中が悩みでこてこてに膨らんでいくんだ。[p.83]

 

うぁぁゴメンナサイ💧

 

そうそう、映画化されてもいたのですね(タイトルには聞き覚えアリ)。

 

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結構違う話になっちゃってるみたいけど、機会があったら観てみたい。

私の脳内イメージではミックって

このマッカラーズ本人みたいなヘアスタイルなんだけどな(カワイイ)。

 

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で、繰り返しになりますけれども、

『黄金の眼に映るもの』(これも映画化されていた……)の新訳、

出ませんかねぇ……。

 

 

最新ショートショート公開。

2024年の二発目、タイトルは「キンギョソウ」。

 

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カクヨム短編賞創作フェス③(最終回)《秘密》参加用の書き下ろし。

 

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ショートショートキンギョソウ」イメージ画 by Midjourney有料版

 

時間潰しにやって来た彼氏に幼稚園時代の思い出を語るヒロイン。

金魚とキンギョソウと謎のビニール袋の記憶……。

 

タイトルは金魚に似た花を咲かせるという植物の名前なのですが、

漢字表記「金魚草」でなくカタカナ書きであるところに含みがあるのデス。

おわかりいただきたい(笑)

 

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くるっぷ でも公開しております。

ご笑覧ください。

 

crepu.net

 

最新(超)ショートショート公開。

2024年一発目、タイトルは「垂雪」。

しずりゆき、と読みます。

木の枝などから滑り落ちてくる雪のこと。

 

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kotobank.jp

 

カクヨム短編賞創作フェス①《スタート》参加用の書き下ろし……ですが、

この内容はちょっと無理があるかな💧(苦笑&反省)

 

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なんというか、悪い癖で、

多くの参加者がポジティヴで前向きで明るい話を書くだろうと

予測したら逆張りしたくなっちゃうんですよね。

 

ともあれ、ごく短い作品ですので是非ご笑覧ください。

イメージ画像はMidjourney有料版で作成。

 

掌編「垂雪(しずりゆき)」雰囲気画。

 

Romancer『掌編 -Short Short Stories-』にて縦書き版も公開しています。

お手数ですが目次から探してページを開いてください。

 

romancer.voyager.co.jp

 

喪中につき〔以下略〕

ご挨拶は省略させてもらいまして、と。

 

しばらくぶりにインド料理を堪能したのですが、

初訪問のお店だったのでした。

 

ナン&カリー🍛💕

 

メニュー名は失念しましたが、

トマト風味の強い、まろやかでスパイシーなチキンカレーをいただきました。

真ん中の白い物体は茹でたまごです。

大変美味しゅうございました(-人-)💕

 

それはともかく。

滞在時間45分くらいだったかと思うのですが、

BGMが……インドの音楽に違いなかろう、それはいい、それはいいんだ、

しかし、あまりにも長くないか?

だったのでした。

ヴォーカルが切れて演奏だけになって、ああ、もうエンディングだな、

と思いながら耳を傾けていると、また歌唱が始まる、その繰り返し。

何なんっ??

とは思えども、日本語でも英語でもないから内容はサッパリわからず。

そこでスマホGoogleアシスタントを起動し、聞き取ってもらったところ、

いくつか候補が上がってきたので、退店して帰路、

車内(助手席)でチェックしてみたのでした。

 

曲はコレでした。

 

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Shiv Amritvani なるトラディショナル歌謡らしいです。

但し、私が今夜のインド料理店で聞いたのは、

この曲(同テンポ&同リズム取り&同コーラス)ではありましたが、

ヴォーカリストは女性でした。

この曲を歌う女性歌手の中では

アヌラーダ・パウドワルという人が有名みたいで、

Shiv Amritvani Complete なる動画も発見したのですが(なるほど長尺💧)

聴いてみると声が違う。

 

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そのお店で流れていたのは Shiv Amritvani ロングバージョンで

Anuradha Paudwal ではない女性歌手が歌い、女性のコーラスが付いたものでした。

 

ああもうお腹いっぱいだ。

今夜は香辛料の香りに満ちた夢に魘されそうな予感……。

 

そんなこんなで、本年もよろしゅうおたの申しまする。

 

ブックレビュー『シェイクスピアの記憶』

J.L.ボルヘスシェイクスピアの記憶』(岩波文庫)読了。

収録作の三編は『バベルの図書館22 パラケルススの薔薇』(国書刊行会)で

既読だったが、本邦初訳の表題作のために購入・読了。

 

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一九八三年八月二十五日

深夜、宿泊するホテルに帰ったボルヘスはフロントで記帳を求められ、

首を傾げつつページに目を落とすと、真新しいインクの跡が自らの名を綴っていた。

宿の主は、よく似た別の客が既にいるが、あなたの方が若いようだと告げる……。

  *

バベルの図書館『パラケルススの薔薇』での初読時より、

もっさり・まったりした印象を受け、同時に何故か内田百閒風に感じられた。

初めて読んだときは、

忘れっぽいドゥルイ氏が繰り返しフロントで自身の部屋番号を訊ねるという、

ブルトン『ナジャ』(1928年)終盤の挿話(白水uブックス,p.156-157)を

想起した。

それはともかく、訳者解説によると、本作の執筆は1970年代末。

作中の語り手ボルヘス(1899/08/24-1986/06/14)が

「きのうで六十一になった」(p.12)と述べているので、

彼にとっての日付は1960年8月25日のはず。

だが、年老いた分身は「君はきのうで、八十四になったことになる」(同)と

応じているので、

現実の作者(70代後半)が過去の自分と近い将来の末期(まつご)の自分の想像図を

対面させている格好。

魔術的。

 

青い虎

1904年末にガンジス川のデルタ地帯で青い虎が発見されたとのニュースを読んだ

〈私〉ことアレクサンダー・クレイギーは、更に、

そこから離れた村にも青い虎の噂があると聞いて旅立ち、

山に入って無数の小石を発見した。

石は分裂し、増えたり減ったり。

村人はそれを「子を産む石」と捉えて、無限に増殖する可能性を恐れていた――。

  *

この世の理(ことわり)が通用しない、

言わば彼岸に存在する物質が我々の世界に顔を覗かせる恐怖は

「トレーン、ウクバール、オルビス・テルティウス」と共通するか。

訳者解説によると〈虎〉は、

芸術の象徴でありつつ現実の象徴でもあり、それゆえ宇宙が人間にとって整然たるコスモスではなく不条理なカオスであることを表すモチーフとなっている(p.136)

とか。

また、

村を抜け出して山の上で解放感を感じる論理学教師の姿に、〔政変を忌避して母国アルゼンチンから頻繁に国外へ旅した〕ボルヘスが重なってくるのだ(p.141)

とも。

 

パラケルススの薔薇

錬金術パラケルススことテオフラストゥス・フォン・ホーエンハイム(1493-1541)

の許に弟子入り志願者がやって来たが……。

  *

訳者解説によると、本作は

「トマス・ド・クインシーの語るパラケルススのエピソードに想を得ながらも」、
「人間には神の作った世界を変えることなどできない、

 神の力に対して人間ができることはほんのわずかである、

 という信念に基づいて錬金術を行う」由。

薔薇は灰になり、灰から蘇る。

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シェイクスピアの記憶

英文学者ヘルマン・ゼルゲルは

シェイクスピア国際会議で知人に引き合わされたダニエル・ソープから

シェイクスピアの記憶を差しあげましょう」と切り出された――。

  *

シェイクスピアの記憶を授けられたとしても本人に成り切れるわけではなく、

しかも、自分自身の記憶が押し流されてしまうことに恐怖を覚える、という話。

 

作者ボルヘス自身の鏡像と思しい主人公たちの驚きが静かだけれども瑞々しい。

旅と記憶と〈読むこと〉〈書くこと〉を巡る佳品群。

 

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最新ショートショート公開。

2023年の〆です。

3600字ほどのショートショートを書きました。

 

掌編「オンブロフォビア」イメージ画像 by Midjourney有料版。

 

romancer.voyager.co.jp

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題して「オンブロフォビア」。

雨恐怖症、です。

 

ejje.weblio.jp

 

BGMには是非こちらを。

 

youtu.be

 

後でくるっぷにもアップする、かも……デス。

 

勢いに乗って久しぶりにカクヨム自主企画を立ち上げました。

題して《年またぎ🎍雨まつり☔》。

アカウントをお持ちの方は是非、参加条件をチェックしてみてください。

 

kakuyomu.jp