深川夏眠の備忘録

自称アマチュア小説家の雑記。

ブックレビュー『夢みる宝石』(新訳)

スタージョン『夢みる宝石(The Dreaming Jewels,1950)』新訳を読了。

寂しがり屋の人間嫌い、ないものねだりの変人スタージョン(←個人の見解です)の

処女長編……というほど長くはないSF幻想ビルドゥングスロマン

 

 

スタージョンは割りと好きだけどこれは読んでいなかった。

なんというか……SFあるいは幻想文学というより、

狭義のファンタジーなのかと思っていたので。

 

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こうして並べてみると、

今般の新訳版の表紙が一番しっくり来ますわ(←個人の感想です)。

 

孤児の少年ホートン、通称ホーティはブルーイット夫妻の養子だが、孤独だった。

野球の最中に蟻を食べた(!)ことを糾弾されたホーティは

養父アーマンドと揉み合いになり、

クローゼットの蝶番に左手の三本の指を挟まれて重傷を負った。

ホーティは心の支えである玩具、びっくり箱人形のジャンキーを引っ掴んで脱出し、

仲良しの少女ケイ・ハローウェルにだけ別れの挨拶をして、

咄嗟の思い付きでトラックの荷台に飛び乗った。

 

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そこにはカーニー(巡業見世物)のメンバー、

少年のようで少年でない太っちょのハバナアルビノのバニー、

浅黒い肌をした小さくて美しいジーナ、聾唖の〈ワニ革男〉ソーラムがいて、

ホーティに優しく接してくれた。

ホーティは女装し、ジーナが考えたセリフを即座に覚えて暗誦すると、

彼女の生き別れだった妹キドーとして芸人の仲間入り。

一座のボスは通称〈人喰い(マンイーター)〉。

元は医者で人間を憎んでいるという本名ピエール・モネートルは

意外にも優しくホーティの傷を手当てしてくれたのだが、

内心には恐ろしい企みがあった。

 

力とは、苦痛を与える技術のことだ。(p.70)

 

てな言辞を弄するマッドサイエンティストであり、多分サディストなんだな、

ピエールは。

ともあれ、無垢なホーティの純真、ピエール・モネートルの妄執と野望、

医師を目指す弟を支えるケイの献身とホーティへの思慕、そして、

何といってもホーティのためなら自己を犠牲にするのも厭わないジーナの深い愛、

それらが、夢に見たものを実体化させる力を持った奇怪な水晶の謎を巡って

絡み合う物語――といったところ。

意外にも心温まるエンディングを迎えたのでホッとした(ちょっと切ないけど)。

何故ホーティが蟻を食べたのか、終盤でちゃんと(本人も知らなかった)理由が

明かされたところがツボでしたわ。

 

余談になるけど、心身共に傷ついた少年が

社会から疎外された優しい人たちと出会うという幕開けが堪らんですばい。

ふと、丸尾末広トミノの地獄』がが脳裏をよぎったね。

 

 

で、『夢みる宝石』がどうして一度も映像化されていないのだろうと

首を傾げたのだけど、

それはやっぱりフリークスの人たちの描き方が困難だからなのかも。

 

 

実写よりアニメに向いているのかな、どうかな……。

 

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