性加害報道が出た監督の旧作を何故、今頃鑑賞するのか。
自分でもどうかしていると思うのですが、
深夜にホラー映画関連情報を検索していると、
そこそこの確率で行き当たるんですよね、これ。
で、myルールで、
時間を置いて3回Wikipediaの当該ページを開いてしまったら
それはもう観る(本であれば読む)べき!
ということでね、ええ。
主な登場人物
尾沢美津子
尾沢小百合:美津子の母。
尾沢剛三:美津子の父(小百合の夫)。
三ッ沢妙子:官能小説作家。
田宮雄二:妙子の担当編集者。
ストーリー
奇妙なサーカス(見世物小屋)の悪夢に魘される12歳の尾沢美津子は、
両親の性行為を目撃し、その後、父に凌辱されてしまった。
すると、美津子を溺愛していたはずの若く美しい母・小百合は、
美津子を「夫を誑かす小娘」と認識したかのように鬼のごとく態度を変え、
事ある毎に美津子を折檻。
あるとき、美津子が父の手で小百合のアクセサリーを身に着けさせられると、
小百合は「イヤリングを返せ」と詰め寄り、揉み合いの挙げ句、
階段の一番上から床まで転落。
一転、憑きものが落ちたように美津子に詫びを言い、息を引き取った。
小百合の遺体は棺桶の中で紅薔薇に埋め尽くされ、
霊柩車は観覧車の電飾が輝く夜の遊園地を通り過ぎた。
それを見送った美津子は父の妻となることを受け入れたものの、
やはり耐え切れなくなって後日投身自殺を図ったが失敗し、下半身不随に……。
☆
ここまでは車椅子で生活する官能小説家・三ッ沢妙子が書いた作品の内容だった。
妙子は編集長に連れられて現れた新人編集者・田宮雄二に好感を抱く。
雄二はおとなしく、おっとりして従順だったが、
どことなく動作がぎこちなく返事もワンテンポ遅いので、
妙子は「ロボットみたい」と笑い、ロボちゃんという綽名で呼ぶことにした。
雄二は編集長から
謎の多い妙子の私生活を覗いて秘密を暴けと指示され、了解する。
編集長の疑問の一つは「妙子の小説は実話か否か」。
雄二が水を向けると、
妙子は「フィクションに決まっている。私は父に犯されたことなどない」と
突っぱねた――。
感想
楳図かずお漫画をうーんと下品にしたかのようですね(笑)。
12歳の美津子のほっそりした儚げな後ろ姿は
『洗礼』の上原さくらを連想させずにおかないのら✌✨
とはいえ、母が娘に嫉妬する図は『洗礼』に似ているが、
夫(父)という男が介在し、彼が諸悪の根源である点がまったく異なる。
(『洗礼』では母は子供=娘が欲しかっただけで相手は行きずりの男性)
妙子の自宅兼仕事場は《酔鯨館》をそのまま借りていて、
内装の異様さ(失礼!)も楳図漫画を彷彿させるけれども。
しかし、もっと異常なのは12歳の美津子が通っていた小学校。
父・尾沢剛三が校長なのだが、屋内の壁が真っ赤に塗られ――
しかも塗りムラの凹凸がひどく、言うなれば切り裂かれた人体の内側、
もっと言えば月経中の子宮内であるかのよう――
教諭はセクシー女優めいた立ち居振る舞い。
こんないかがわしい学校あかんやろ(笑)!!
まともな食事のシーンもないし。
尾沢家の家庭としての機能不全ぶりを象徴しているのでしょうね。
小百合はハンバーグを作ろうとしていたようだったけど(何人前だよっww)。
一方、妙子が来訪者に立ち入りを禁じているドアの向こうは……
見てのお楽しみ。
取り繕った上辺の沈殿物といった趣きの、
とんでもない乱雑さが当人の惑乱・倒錯ぶりを表しているのでありましょう。
でも、あんな風に一心不乱に小説を書き殴ることが出来るのは
正直なところ少し羨ましい。
書き殴る――
そう、妙子はパソコンなどを使わず、原稿用紙に手書きで小説を綴っているのだ。
まあ、パソコン使ってプリントアウトでも構わんのでしょうが、ともかく、
紙の存在が後で大きな意味を持ってくる……。
そして、そこに鎮座する丸い穴の空いたチェロのケース――。
その他・気づいたこと
妙子が雄二に仕事場のBGMにしている音楽を聴くよう、
レコードから録音したというMD(ミニディスク)を渡すところに
二つ折りケータイ共々、時代を感じましたわ(笑)。
さて、この部分は作品全体のネタバレに繋がるので、
知ってしまっても構わない方だけ文字列ドラッグ反転でお読みください。
----------------- 物語の根幹に関わるヒントのようなもの ----------------
見始めて真っ先に脳裏をよぎったのは上述のとおり、
『洗礼』を含むいくつかの楳図かずお作品だったのですが、
もう一つ「人工天使種」というマンガがありまして。
ご存じの方はピンと来ちゃったと思うんだなぁ……。
以前借りてちょっと読んだだけなので、初出を確認できないのですが、
単行本が2003年刊行ですから、それ以前に雑誌に掲載されていたはず。
版元から見て太田出版『マンガ・エロティクス・エフ』だったのではないかと。
それはともかく。
父と二人暮らしになった女の子が、ある日、父に強姦され、
次第に惰性で受け入れるようになったのだけれども、
いつまでもこのままではイカン! と、お金を貯めて飛び出して、
女性の生殖器官を摘出する手術を受け、復讐の意味を込めて
外見も父の好みから外れるようにガラッと変えてしまった。
そして、人間をやめて天使になることを選んだ……とばかりに、
父の目の前で窓から転落して昇天する――というお話。
あっ、しまった、こっちのマンガのネタバレになってもうた(笑)。
発表はこの「人工天使種」の方が先なので、
もしかして園監督は本作を読んだことがあったのでは……と邪推する次第。
映画の後半に雄二が身体改造者の集いに参加するシークェンスがあるのですよ。
---------- 物語の根幹に関わるヒントのようなもの、ここまで ----------
察しのいいヒトは予告編を見た上で本編を鑑賞したら
早々に勘づいてしまいそうな気が。
エンディング
現実離れした無茶苦茶なお話ですが、後半の映像がイイ。
車椅子に乗った妙子と付き添いの雄二が電車で出かけ、
妙子の思いつきで鎌倉の海へ――の辺りが特に。
やっぱりみんなあの位置に江ノ島が映る画角で撮りたいんだねぇ(ニマニマ)。
ただ、その後にゴアシーンが待ち受けているので、
苦手な方にはお勧めできません。
R-18指定ですが、
エロ描写に関しては然程えげつないとは思わなかったなぁ(個人の感想です)。
多分、脱ぎまくりキレまくりの宮崎ますみさんの顔立ちが
カッチリ整ったタイプなので、
あまり生々しさを感じなかったのだろう、と(あくまで個人の感想です)。
残虐描写も想定の範囲内というか(あくまで個人の耐性です)。
妙子の諸々の行動の意味と雄二の目的が明かされ、
映画はフィナーレを迎えるのですが、手前からチョコチョコ、
妙子が眠る⇒悪夢に魘されて飛び起きる⇒また眠る……ので、
ラストに向かって、
どこからどこまでが[虚構内]現実でどこからどこまでが[虚構内]虚構なのか
判然しなくなるところも好みです。
(でも、鬼畜親父=尾沢剛三が見ていた夢だった、とか言われたら怒るꐦ)
一番好きな場面は、雄二の語りによって喚起されたイメージで、
雄二が12歳の美津子に寄り添って――肩にそっと手を置いて――
尾沢邸の中を歩くところ(美しい)。
そういう細かいところが大事なんだって。
ミツコ
美津子の名から先行する『自殺サークル』のミツコ――というか、
私の場合あの映画は未見で、
古屋兎丸によるコミック版『自殺サークル』の光子を思い出したのだが、
まとめ
本作を単なるエログロ・ゴア映画だと一蹴できる者は幸福である。
そうした御仁はきっと、中高生時代の美津子が
母のなくなったイヤリングの片方をキッチンの収納扉の下から見つけて、
お゛があ゛ざー゛ん゛、あ゛っ゛だよ゛ぉ゛ぉ゛ー!!
と泣き叫ぶシーンに感じ入ることもないのだろうね。
愛憎は表裏一体、但し度を超すと惨劇を招く――といった塩梅さね。
そうそう、その十代後半の美津子が髪を振り乱した横顔、
斜めから映された顔を見た瞬間、得心したのですよ。
なるほど、そういうことか、と。
【注】但し、このくだりは[虚構内]虚構だったと後で判明しまする。
結び
監督自身の手になる音楽も流麗で満足度星5つ☆☆☆☆☆!
と言いたいところだけど、何だかねぇ(当記事冒頭に戻る)――で、
1個マイナスで星4つ☆☆☆☆としておきます。
多分この人の他の作品は見ない。
ただ、これだけはどうしても押さえておきたい衝動に駆られてしまったのよ。
そして、一服の清涼感を覚えている(カタルシスを得たのココロ)。