深川夏眠の備忘録

自称アマチュア小説家の雑記。

ブックレビュー『一度きりの大泉の話』

 萩尾望都『一度きりの大泉の話』読了。

 

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一度きりの大泉の話

一度きりの大泉の話

 

ja.wikipedia.org

 

日本少女漫画界の大巨星・萩尾望都御大の自叙伝が出ると聞いて、

喜び勇んで予約したものの、発売を待つ間に何やら不穏な気配を感じた。

読み始めてじきに、嫌な予感が的中したのを察した。

新人時代の慌ただしくも楽しかった青春の日々――

といった話ではなく(もちろん愉快なエピソードも回顧されてはいるが)、

反芻すればするほど苦くて辛い出来事の記録なのだった。

 

これから読む人のために、細かい点には触れないが、

オモー様の価値観、物事の捉え方・考え方、

また、それらに基づく反応の仕方に強く共感した。

例えば p.265、

 

 > 私は何か言われて、不快でも反論せずに黙ってしまう癖があります。

 > それは不快という感情と共に、強い怒りが伴うので、

 > 自分で自分の感情のコントロールができなくなってしまうのです。

 > 感情は熱を持ち、一気に暴走列車のようになり、

 > 自分で持て余してしまいます。

 > この感情はきっと大事故を起こす。

 > 怖くなって、押さえ込み、黙ってしまう方を取ります。

 > 冷静に反論する練習をすればいいのでしょうが、

 > なかなかうまくいきません。

 

わかる。

 

芸術家にも能弁でセルフブランディングが得意な人物と、

不得手な人物がいると思うのだが、

私は後者に好感を抱くし、応援したいと考える。

 

また、本書を通読して、

何故自分が(自慢できるほどちゃんとした読者ではないけれども)

萩尾作品が好きなのか、理由の一部を再確認した。

勝者の物語にほとんど興味がなく、

悩める人々が自らの苦悩とある程度折り合いをつけながらも、

やはり悩み続けて生きていくストーリーに共鳴するからなのだ――と。

 

スター・レッド (小学館文庫)

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特に好きなのは第二期作品集という括りに入る短編群。

 

「半神」「ラーギニー」「スロー・ダウン」など、

たったこれだけのページ数でどうしてこんなに深い話を!

と、読むたびに驚いてしまう。

半神 (小学館文庫)

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「エッグ・スタンド」は読むと必ず泣いてしまう反戦漫画。

「天使の擬態」「十年目の毬絵」も、

生きることの喜びと悲しみの対比が美しい。

 

メッシュシリーズはお人好しの贋作画家ミロンが大好き。

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メッシュ 1 (白泉社文庫)

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