深川夏眠の備忘録

自称アマチュア小説家の雑記。

ブックレビュー『山峡奇談』

購入から半年寝かせて(汗)ようやく河出文庫『山峡奇談』を繙き、読了。

日本文学研究者・志村有弘=編、

古代から昭和初期まで、日本各地に伝わってきた山に関する不思議な話、

怖い話を集めた現代語訳アンソロジー

山峡奇談 (河出文庫)

山峡奇談 (河出文庫)

  • 発売日: 2020/01/08
  • メディア: 文庫
 

 

■古代・中古(奈良~平安時代
 僧と鬼にまつわる話が目立つ(山だから当然か)。
 新潟の「逃入(にごろ)村の塚と道真の祟り」が不気味。
 村の人が手習いをすると菅原道真に祟られるため、文字が書けないので、

 よその人に頼んで代筆してもらわなければならず、何故祟られるかというと、
 昌泰の変【※】によって道真を追い落した

 藤原時平とその妻の墓(塚)があるためだ、とか。


 【※】901年、左大臣藤原時平の讒言により

    醍醐天皇が右大臣菅原道真大宰府へ左遷した。

 

■中世(鎌倉~安土桃山時代
 盗賊の話や武士の話。
 『撰集抄』の西行が人造人間を作ろうとしたとの記述が(改めて)強烈。

 

■近世(江戸時代)
 動物を巡る奇談。

 『奇談雑史』収録、「狐に誑かされた男」が滑稽かつ奇怪。
 阿辺野の古狐に気をつけろと言われても怖気づかなかった男が

 まんまと騙される話。

 

■近代(明治時代~昭和)
 天狗を巡る話あり、幽霊譚あり。
 杉村顕道『信濃怪奇伝説集』中の「蓮華温泉の怪話」に既視感を覚えたが、
 先に読んでいたのは岡本綺堂「木曽の旅人」だった。
 山の中の一軒家に旅の男がやって来て、一晩泊めてくれと言い、

 主は快く招き入れたが、幼い男児が怯え、犬は吠え……結局、
 旅人は立ち去ったが(ネタバレ回避)――という恐怖譚。
 「木曽の旅人」初出は1897(明治30)年『文藝倶樂部』だそうなので、

 1942年に刊行された『信濃怪奇伝説集』(←1934年『怪奇傳説 信州百物語』改題)
 より先で、すると、
 信濃には同様の物語が様々なヴァリエーションで語り継がれてきたのだろうか。

www.aozora.gr.jp

 

ともあれ、

自然界には人が踏み超えてはいけないボーダーラインが確実にある、

と思ったし、一部、柳田国男遠野物語』の読み直しにもなった。

遠野物語―付・遠野物語拾遺 (角川ソフィア文庫)

遠野物語―付・遠野物語拾遺 (角川ソフィア文庫)

  • 作者:柳田 国男
  • 発売日: 2004/05/26
  • メディア: 文庫
 


しかし、附録「山窩綺談」は明らかに戦後の作り話で蛇足というか興醒め。

ちょっと残念。