購入から半年寝かせて(汗)ようやく河出文庫『山峡奇談』を繙き、読了。
日本文学研究者・志村有弘=編、
古代から昭和初期まで、日本各地に伝わってきた山に関する不思議な話、
怖い話を集めた現代語訳アンソロジー。
■古代・中古(奈良~平安時代)
僧と鬼にまつわる話が目立つ(山だから当然か)。
新潟の「逃入(にごろ)村の塚と道真の祟り」が不気味。
村の人が手習いをすると菅原道真に祟られるため、文字が書けないので、
よその人に頼んで代筆してもらわなければならず、何故祟られるかというと、
昌泰の変【※】によって道真を追い落した
藤原時平とその妻の墓(塚)があるためだ、とか。
■中世(鎌倉~安土桃山時代)
盗賊の話や武士の話。
『撰集抄』の西行が人造人間を作ろうとしたとの記述が(改めて)強烈。
■近世(江戸時代)
動物を巡る奇談。
『奇談雑史』収録、「狐に誑かされた男」が滑稽かつ奇怪。
阿辺野の古狐に気をつけろと言われても怖気づかなかった男が
まんまと騙される話。
■近代(明治時代~昭和)
天狗を巡る話あり、幽霊譚あり。
杉村顕道『信濃怪奇伝説集』中の「蓮華温泉の怪話」に既視感を覚えたが、
先に読んでいたのは岡本綺堂「木曽の旅人」だった。
山の中の一軒家に旅の男がやって来て、一晩泊めてくれと言い、
主は快く招き入れたが、幼い男児が怯え、犬は吠え……結局、
旅人は立ち去ったが(ネタバレ回避)――という恐怖譚。
「木曽の旅人」初出は1897(明治30)年『文藝倶樂部』だそうなので、
1942年に刊行された『信濃怪奇伝説集』(←1934年『怪奇傳説 信州百物語』改題)
より先で、すると、
信濃には同様の物語が様々なヴァリエーションで語り継がれてきたのだろうか。
ともあれ、
自然界には人が踏み超えてはいけないボーダーラインが確実にある、
と思ったし、一部、柳田国男『遠野物語』の読み直しにもなった。
しかし、附録「山窩綺談」は明らかに戦後の作り話で蛇足というか興醒め。
ちょっと残念。