表題作(長編)と短編「蜘蛛と百合」「薔薇と鬱金香」の計3編収録、
『蝶々殺人事件』を読了。
「蝶々殺人事件」
戦後再会した探偵・由利麟太郎と新聞記者・三津木俊助。
二人は過去の難事件を回想し、残された資料を元に
三津木が小説を書いてはどうかという話になり、
昭和12年、原さくら歌劇団に降りかかった惨劇について、
当時のマネージャー土屋恭三が綴った日記が開陳される。
東京公演に引き続き、大阪へ向かった原さくら歌劇団だったが、
稽古の直前になっても肝心のさくらが到着せず、一同が気を揉んでいると、
オーケストラのコントラバスのケースから、
萎れた花に包まれた彼女の遺体が発見された……。
本筋からは逸れる部分で用いられた軽い叙述トリックが心憎い。
映像作品では表現しにくい、活字ならではの小技というべきか
(マンガでも可能だろうけれども)――に、やられた!
と膝を叩いてしまった。
この部分はドラマに採用されるのだろうか……されない気がするが……
どうなのだ……。
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「蜘蛛と百合」
新聞記者・三津木俊助の友人でジゴロの美青年・瓜生朝二が、
俊助と別れた直後、何者かに殺された。
俊助は朝二が関係を持っていた美女・君島百合枝に接近し、
探偵・由利麟太郎に釘を刺されたにもかかわらず、
彼女の魔性に魅入られ……という、妖美な物語。
百合枝と“夫”の歪な関係の完成に手を貸す由利先生と俊助
――という、清廉な彼らには珍しく
非道徳的な雰囲気に包まれて終わる作品。
私はキッチリ、カッチリした本格推理小説より、
こういう耽美的な怪奇・探偵小説が好きなのだった。
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「薔薇と鬱金香」
鬱金香夫人=マダム・チューリップと綽名される
美人雑誌記者・弓子は、五年前、夫の畔柳博士を殺害され、
未亡人となったが、小説家・磯貝半三郎と再婚した。
畔柳博士を殺したのは当時の美青年人気歌手《薔薇郎》だったが、
彼は獄中で病死。
今は幸福に暮らす磯貝夫妻に、死んだはずの《薔薇郎》の魔の手が――。
《薔薇郎》のセリフ(p.405)
色男に金と力がなかったのは昔のことだ。
現代のアドニスはその両方とも持っている。
に、お茶を噴いたぜよ(笑)。
予想外のハッピーエンドだが、
気になるのは薬で眠らされた(?)きりの堀見三郎くん、今いずこ……。