澁澤龍彦が翻訳したフランスの小説集、全6編収録。
タイトルは仰々しく重苦しいが、
中身は意外に肩の力を抜いて楽しめる軽さ(巻頭作以外)。
恐怖より黒い笑いの比重が高い。
圧巻のボリューム、ジュール・シュペルヴィエル「ひとさらい」は、
家庭環境が複雑そうな子供を攫っては家族を増やす夫婦の話。
フィレモン・ビガ大佐は自らミシンで子供らの服を縫い、
立派な父たらんと身構えるが……。
現実の誘拐犯はこんなに丁重で優しくはなく、ゲスの極みでしかないと思うが、
親と共に家にいても落ち着かず、
自分の居場所を他に求めようとする子供の心持ちは、
経験があるだけによく理解できる。
とはいえ、いくらお金持ちで優しいおじさんに引き取られようと、
成長すれば我を通すようになるし、
男女が共存すれば恋愛沙汰も生じて話がややこしくなり、
何もかもおじさんに都合のいいパラダイスが維持されるはずはないのだった。
地位も名誉もあり、裕福で私生活にも恵まれた男の心に魔が差して、
転落の一途を辿る、ナボコフ『カメラ・オブスクーラ』(1932年)を
何となく連想した。
特に面白かったのは巻末の掌編、レオノラ・カリントン「最初の舞踏会」。
社交界デビューしたものの、自宅で開かれるパーティを嫌がる娘の奇策、
その協力者とは……。
クスッと笑える、とぼけた味わい。