深川夏眠の備忘録

自称アマチュア小説家の雑記。

ちばひさと四番勝負!【後編】

古いマンガ一人思い出し祭前編はこちら。

fukagawa-natsumi.hatenablog.com

長いので二部構成、後編です。

 

 

『うさぎは眠っている』1987年12月刊(東京三世社

『うさぎは眠っている』カバー。クリムトの「接吻」ですよね。

ja.wikipedia.org

カバー折り返しに概要が綴られており、

それによると驚くことに描き下ろし長編作品。

 

前半、舞台は恐らく1970年代半ば頃のアメリカ、ボストン。

シングルマザーのアマンダ・ギャラガーは

女手一つで一卵性双生児の息子たち、レオンとラドクリフを育てているが、

元々裕福な家の出なので生活に苦労はしていない。

彼女は敬虔なクリスチャンなのだが、子供たちに信仰を強制し、

過剰なまでに清廉であれと要求するなど、行き過ぎた面があった。

バスケットボール部のエースで斜に構えた長男レオンは

母の度が過ぎるところを嫌っていたけれども、

素直でおとなしい次男ラドクリフは常に期待に応えようとしていた。

しかし、同級生で才色兼備なベル・オコーナーと相思相愛になり、

こっそり(図書館などで)清純なデートを楽しむようになった。

レオンはラドクリフを羨みつつ応援していたのだが……。

 

金髪の双子美少年と

宗教に強いこだわりを持つ支配欲・束縛傾向の強い母親――という設定で

秋里和国「オリジナル・シン」を思い出した。

(1985年刊行『デッド・エンド』収録。表題作の前日譚)

途中で、あたかも“第一部・完”といった調子で話が一旦途切れ、

十年余り(?)が経過し、

流れが変わったことで終盤グダグダになりはしまいかと

勝手にハラハラしながら読み進めたが(失礼!)

レオンはいろいろなものを失ってしまったけれど、友情や希望は残った――

といった感じの、意外にもきれいなエンディング。

短めの映画を鑑賞したような気分を味わった。

 

 

『秋の蝶』1989年9月刊(小学館PFコミックス)

短編集『秋の蝶』カバー全容。

 「ジャングル」(プチフラワー 1986年9月号掲載)

  女子高生・遠野七里(しちり)は繰り返し同じ夢を見、

  目覚める前に恐怖を覚えていた。

  夢の中はジャングルで、走った先に穴があり、

  十二年前に亡くなった妹・一里(いちり)が

  そこから這い上がろうとするらしいのだが……。

  酸性雨の脅威が深刻化するというマクロな話と

  遠野家の私的な問題が交錯し、更に、

  謎めいた新体操美女転入生の奇行が空気をザワつかせる。

  32ページの読み切りなのだが、前後編の前編といった印象を受ける。

  つまり、広げられた風呂敷が畳まれていないということ(笑)。

  それにしても、主が農学博士という遠野家、

  チラッと出てくる外観がメッチャ豪邸っぽいんですけど。

  奥さん(七里の母)がヘルパーさん等に頼らず

  一人で家事をこなしているとしたら驚異的。

『秋の蝶』p.7「ジャングル」冒頭、主人公の家(ほえー💧)。

 「水迷宮(すいめいきゅう)」(プチフラワー 1989年9月号掲載)

  鳴神楼の仲居である堀 鹿の子は旧家の一人息子の世話係に指名され、

  篠田家へ。

  本人は奉公に上がる心積もりだったが、

  行ってみれば上げ膳据え膳の食客扱い。

  だが、庭の池には魔が潜み、

  男は皆、呪われて非業の死を遂げると伝わり……。

  一種の変身譚。

  浮き世で器用に立ち回れない者が水に潜るのか。

  どことなく泉鏡花作品に似た趣き。

 「歌」(プチフラワー 1988年2月号掲載)

  ユダヤ人の少年ハンス・キュルテンはナチスの収容所へ送られながら、

  類まれな美声のお陰でミュラー少佐に気に入られたが……。

 「秋の蝶」(プチフラワー 1988年12月号掲載)

  広大な敷地を持つ大地主の御曹司である清顕(きよあき)少年は、

  離れでひっそり暮らす桜子叔母を慕っていた。

  洗礼名ヴェロニカと名乗る不思議な美少女との出会い、

  また、桜子叔母に恋人が出来たことを知った衝撃を経て、

  少年は自身の秘密に辿り着いた……。

  舞台装置はまったく違うが、

  萩尾望都(原作=今里孝子)「マリーン」(『半神』収録)を連想した。

 「グリーン メッセージ」(プチフラワー 1984年12月号掲載)※既述

 フォロー・ミー(プチフラワー 1984年7月号掲載)

  アルジェリアからやって来た転入生サリナ・ネフェールに

  振り回されるクラス一同。

  サリナは委員長・雀部紀子(すずべ・のりこ)にファティールと

  呼びかけ……。

  時空も性別も超越した運命の恋――といった話なのだが、

  ゴメン、ググッて出て来たファティールってば!(おいしそう!!)

ja.wikipedia.org

 

といった次第で、充分お腹いっぱいなのですが、

もっと食べたい気分になってしまう不思議。

絵柄にせよ扱われるテーマにせよ、読み手を選ぶ傾向が強そうだけれども、

私の好みには合っています。

そうそう、

作者自身が『林檎料理』の《作品後記》(p.137)で述べていたとおり、

 

これらの作品は地に足がついてしまえばそれで終わりの、

はかない白昼夢のようなもの。

けれども、それ以上でもそれ以下でもないこれらの存在を、

私は私なりに愛して守ってゆきたいと思っています。

 

そういうことでいいのだと思います(無性に共感してしまう……)。