深川夏眠の備忘録

自称アマチュア小説家の雑記。

ブックレビュー『極地の空』

ベルナルド・ベルトルッチ監督の映画『シェルタリング・スカイ』の

原作として知られるポール・ボウルズ『極地の空』読了。

 

ja.wikipedia.org

 

――というか、そもそも小説の原題が The Sheltering Sky 。
Wikipediaによると、映画には作者も出演したとか。

 

ja.wikipedia.org

 

シェルタリング・スカイ [Blu-ray]

シェルタリング・スカイ [Blu-ray]

  • 発売日: 2020/08/05
  • メディア: Blu-ray
 
シェルタリング・スカイ [DVD]

シェルタリング・スカイ [DVD]

  • 発売日: 2010/04/16
  • メディア: DVD
 

 

分身や双子をテーマに編纂されたアンソロジー『ダブル/ダブル』に

収録された「あんたはあたしじゃない」という変な短編を読んで、

この作者名に見覚えがあるな、と思ったら、あの人か……と。

 

fukagawa-natsumi.hatenablog.com

 

そこで(映画未見のまま)シェルタリング・スカイ

気になりだしたのだけど、絶版の文庫の中古価格が高騰していたので

元の単行本を取り寄せた次第。

訳者が同じだから内容もそのまま一緒だろうと考えて。

 

 

あ、今、見直したら ☝ 値が下がってる……ガビーン💧

私が購入したのはこちら。

 

f:id:fukagawa_natsumi:20210223212031j:plain

1955年5月刊・新鋭海外文學選書『極地の空』書影

 

旧字・旧かなですよ。

そんなに苦にならないですけどね。

それより驚いたのは奥付。

 

f:id:fukagawa_natsumi:20210223212511j:plain

『極地の空』奥付

 

「地方売価」なる見慣れぬ語。

そうか、昔は首都圏と地方で本の定価が違ったのか……。

 

さて、内容ですが。

 

第二次世界大戦後間もなく、アメリカ人のモレスビー夫妻は

友人タンナーと共に戦争の余波が感じられない地域へ長期の旅を……

と考え、北アフリカへ。

結婚から12年、ポート(ポーター)とキット(キャザリン)は

倦怠期に入っていた。

緩衝材となり得そうな男を一人加えたつもりの旅だったが、

却ってタンナーの陽気さ、暢気さにイライラさせられる二人。

しかし、ホテルのバーで知り合ったイギリス人、

エリック・ライルとその母の誘いで別の土地へ移動することになったのが

きっかけで、彼らは破滅への道に足を踏み入れ……

 

といったところ。

 

金と暇を持て余し――あまつさえ定職に就いてもいない――

三十代後半(?)の、やや高慢な夫婦が

共に“壊れて”いく様が淡々と叙述される。

終戦後、戦勝国として我が世の春を謳歌するアメリカと、

その物質文明を批判する意図で書かれたのか、どうなのか、

この古い翻訳書と巻末の解説でははっきりしない。

一読者としては、作者はもしかすると第三部の妻キットの彷徨を描きたくて、

それに説得力を持たせるために

長くまだるっこしいイントロダクションを構築したのだろうか……

という印象を持った。

ただ、自然の猛威(砂漠という過酷な環境や疫病など)に、

ちっぽけな人間はなす術もなく押し流されるのみ――との考えには共感できる。

 

邦題について翻訳者はあとがきで、

 > 人間の頭上にあって彼を庇護している大空、という意味の、

 > 作品中の言葉からとったものである。

 > どうにも適訳がないので、主人公たちがサハラ沙漠という

 > 一種の極限状態のなかへ入りこむという物語の成行きから

 > 「極地の空」という意訳を試みたわけである。

と述べているが、

上記『ダブル/ダブル』における柴田元幸氏による「天蓋の空」の方が

しっくり来ると思う。

 

高い建物がなく、開放的で、空がとても広い、けれども、

旅人に自由を謳歌させてくれるかのような、そんな空が、

実は霞網のように彼らを捕え、縛めている――

といったニュアンスなのかと読後に感じた。

 

あ、一ヶ所、人が倒れていましたね(笑)。

 

f:id:fukagawa_natsumi:20210223213950j:plain

『極地の空』p.27

 

ところで、現在、書影に誤りアリ。

同《新鋭海外文學叢書》のモンテルラン『沙漠のバラの戀物語』

が表示されちゃっています(あーあ)。

 

 

こういうとき、現物の所有者が表紙を撮影してAmazonに投稿すれば、

上書きしてもらえるのですが、

データが反映されるまでにかかる時間の長いことといったら!

面倒だからやりません、誰か代わりにお願い(-人-)南無。