1999年に出版された
ロシアの作家ウラジーミル・ソローキンの長編SF小説。
2068年、酷寒の地に建つ遺伝子研(GENLABI)18に、
七人の文学者のクローン体が運び込まれた。
クローンたちは新作を書き上げると焼け焦げて仮死状態に陥り、
超絶縁体の《青脂》――青い脂――を体内に蓄積させる。
研究所員の一人、言語促進学者ボリス・グローゲル曰く、
防衛省が月面にピラミッド型をした不変エネルギーの反応器を造っており、
その原料になるのが第五世代の超伝導体と《青脂》で、
それは軍事用ではなく、毒性もなく、分解可能だが燃えることもない――。
物語の鍵を握る謎の物体が次から次へと人の手に渡っていく様は
さながら河竹黙阿弥『三人吉三廓初買』のようだと思いつつ、
ニヤニヤしながら読み進めたが、
次第にボルヘスの名言が頭を擡げ出した。
> 長大な作品を物するのは、
> 数分間で語りつくせる着想を五百ページにわたって展開するのは、
> 労のみ多くて功少ない狂気の沙汰である。
※『八岐の園』~「プロローグ」(岩波文庫『伝奇集』p.12)
様々なテクストを織り込んで諷刺を利かせているのは理解できたが、
後半のエログロ描写ですっかりお腹いっぱいに(笑)。
ただ、《青脂》が製造される2068年のロシアに
中国語・中国文化が浸透しているらしい叙述について、解説(p.604)には、
> すでに疲弊した西洋に代わって中国が勢力を増し、
> やがてその文化がロシア文化を侵食するだろうという
> ソローキン独自の未来予測
とあり、中国のパワーが増大して、
ロシアに限らず世界中を席巻している現状を鑑みるに、
前世紀末時点での作者の予見は的中していたと言えるのでは……と、
その点には深く頷かされた。
ともあれ、最後まで投げ出さずに読了した自分を褒めてあげたい(笑)。