深川夏眠の備忘録

自称アマチュア小説家の雑記。

ブックレビュー『真珠の首飾り‐他二篇』

岩波文庫レスコーフ真珠の首飾り‐他二篇』を読了。

 

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19世紀ロシアの作家・ジャーナリスト、

ニコライ・レスコフの中短編小説集。

リズム感のいい神西節が冴える素晴らしい翻訳。

旧字だが全然読みにくくない。

手に取ったきっかけは岩波書店『図書』2020~2021年の亀山郁夫の連載

「新・ドストエフスキーとの旅」第9回

〈去勢派とバフチン――2018年8月、オリョール〉で

ムツェンスク郡のマクベス夫人」に言及されていたこと。

訳者があとがきに記したとおり、幻想的な趣きもありつつ、

現実から遊離していない物語群。

 

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ムツェンスク郡のマクベス夫人(Ledi Makbet Mcenskovo uezda,1866)

 極め付きの美女とは言い難いが

 若くコケティッシュなカテリーナ・リヴォーヴナは、

 ずっと年上の商人イズマイロフに嫁いだ。

 舅や使用人らと共に淡々と暮らしていた間は平和だったが、

 番頭衆の一人で格別の色男、

 プレイボーイと評判のセルゲイと不倫関係になって以来、

 長年胸の奥で眠っていた悪心(あくしん)が目覚めたかのように

 大胆不敵になり、遂には二人の利益のために殺人を犯す――

 というノワール小説。

 オチには途中で察しがついた……というのも、

 ヴァレーリー・トドロフスキーの映画『恋愛小説』(1994年)を

 思い出したため。

 映画はこの小説を意識した作劇だったのか、

 それとも、これがロシア式悲恋物のテンプレなのか??

 ちなみに、野心も希望もなく静かに暮らしていた女が

 ワイルドな美男と不倫の恋に落ちたことから大胆になっていく展開も同じ。

 ヒロインを強引にモノにする男の名も同じくセルゲイ。

 

 (DVDになっていないのか。きっそーꐦ)

 

 ちなみに、上記「新・ドストエフスキーとの旅」によれば、

 本作の初出はドストエフスキーが主宰していた雑誌『エボーハ』

 1865年1月号で、ドストエフスキーに高く評価されていた由。

 

真珠の首飾り~クリスマスの物語(Zhemchuzhnoe ozherelje,1886)

 結婚して幸せになりたい! いい人を紹介してくれ!!

 ――と弟に縋られた既婚の兄。

 弟はあるお嬢さんと意気投合したものの、彼女の父親が問題で……という、

 クリスマスと真珠のネックレスを巡るユーモア溢れる物語。

 

かもじの美術家~墓の上の物語(Tupejnyj hudozhnik)

 この作品だけ発表年不詳らしい。

 タイトルの「かもじ」は髢で、今で言うエクステの意。

 舞台役者のヘアメイクを手掛けたアーティストについて語る、美しい老乳母。

 彼女は元女優で、伯爵に強引に妾にされそうになったところを、

 意中の人であるヘアメイク担当の男性に助けられ、駆け落ちしたという……。

 伯爵に望まぬ性的関係を強要されて怯える女優に、

 彼女の髪をセットしながら「心配するな、連れ出してやるぞ」と

 耳打ちする〈かもじの美術家〉。

 痺れる~!!

 

……といった次第で、なかなか楽しい読書でありました。

それにつけても、早く戦争が終わりますように。