早川書房の異色作家短篇集ラインナップを見ていて、
まだ買えるだろうかと探ってみたら新品で手に入った、
ジョルジュ・ランジュラン(1908-1972)『蠅』。
名前からしてフランス人だと思っていたが、バイリンガルで、
フランス語で小説を書いたイギリス人だったというのが一番の驚き。
しかも、МI5の諜報員だった(ひゃー!)。
- 作者: ジョルジュランジュラン,George Langelaan,稲葉明雄
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2006/01/01
- メディア: 単行本
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全10編収録。
蠅
奇跡
忘却への墜落
彼方のどこにもいない女
御しがたい虎
他人の手
安楽椅子探偵
悪魔巡り
最終飛行
考えるロボット
特に印象深いのは……
■蠅
有名な映画『ハエ男の恐怖』/『ザ・フライ』の原案。
物質転送装置を開発しようとした科学者の悲劇。
序盤、語り手=科学者の兄が、
電話(データの伝達装置)が鬱陶しいと盛んに訴えていたのは伏線だったのだ。
■彼方のどこにもいない女
原子力研究所の主要ポストに就く
バーナード・マースディンが暖炉で燃やした走り書き。
兄は灰の中から断片を摘み上げ、辛うじて読み取れる文面に目を通した。
バーナードは深夜、放映終了後のテレビに、
どこかから送信される電波によって現れた美しい女性に恋していた……。
タイトルから漠然と想像した結末とは異なる“行き違い”オチだったので、
軽くのけぞった。
根源は戦争がもたらした悲劇。
■安楽椅子探偵
パーマー家の赤ん坊トゥィーニーが誘拐された。
犯人は誰か、“おじいちゃん”の名推理が冴える愉快なユーモア掌編。
■考えるロボット
18世紀後半に造られた「トルコ人」
またの名を「メルツェルの将棋指し」と呼ばれる、
ポオもエッセイで考察したオートマタが題材。
後年見破られたが、
実は中に人間が入ってチェスをプレイしていたという装置を題材にした
マッドサイエンティスト短編。
死んだはずだが棺に遺体がなかった友人ロベールは、
婚約者ペニーが睨んだとおり、
発明家兼興行師サン・ジェルマン伯爵によって
チェス・ロボットのブレーンにされてしまったのか……というスリラー。
1950年代末頃、既にAIに言及していた点が興味深い。