深川夏眠の備忘録

自称アマチュア小説家の雑記。

ブックレビュー『黄(ウォン)夫人の手』

岩波書店『図書』の連載、四方田犬彦大泉黒石」を愛読していて、

肝心の作品が気になったので、現在比較的入手が容易な古書を購入。

それなりにおどろおどろしいものを期待していたが、

意外にアッサリ、薄味の(?)選集だった。

 

 

戯談(幽鬼楼)

 北京にて、新聞記者・湯田町金太郎が語り手の「私」に聞かせた怪談。

 龍洞亭なる宿の52番室に現れる、妻に裏切られた男の幽霊の話。

 

曾呂利新左衛門

 お茶坊主・曾呂利新左衛門が豊臣秀吉に聞かせた酒造職人の話。

 許婚に裏切られた嘉一郎は彼女を殺したが、

 その夫となっていた米問屋の奉公人・市蔵に恨まれ、

 追われる身となった――。

 ※嘉一郎と市蔵の再会シーンは素晴らしくグランギニョレスク!

 

弥次郎兵衛と喜多八

 金を融通してくれという弟分・喜多八の頼みを断るために

 弥次郎兵衛が考えた長い言い訳。

 

不死身

 平壌を旅した小説家が宿の主に教えられた書物の中の美しい妓生

 李桂花に興味を持ち、当人に会って聞き出したという話。

 

眼を捜して歩く男

 困窮し、黄龍寺に泊めてくれと言って現れた画家。

 その異様な作品は……。

 亡妻の美貌をキャンバスに写し取ることに命を懸けた男の物語。

 

尼になる尼

 尼僧になり、還俗して富豪に嫁ぎ、幸福に暮らしていた女性が、

 大切な宝石を愛する夫の誕生祝いに贈ろうとしたのがきっかけで、

 自身の秘密を知る。

 

青白き屍

 脱獄囚ロザノフの逃避行と彼の罪状。

 オチはタイトルで想像出来てしまった……。

 

黄夫人の手

 長崎が舞台の怪談。

 (旧制)中学生・藤三は

 上海からやって来た転入生・黄廛来(ウォンテンライ)と親しくなったが、

 彼の実母は窃盗と殺人の罪で刑死していた。

 廛来の亡母の呪いは藤三にも害を及ぼし……。

 ※金に困った藤三が古書店に本を売り、

  伝票を見ると「黄夫人一冊、金六十五銭也」「黄夫人一冊、金三十六銭也」

  ……と書かれていた、というシーンが一番怖い。

 ※※岩波書店『図書』連載、四方田犬彦大泉黒石」によれば、

   モーパッサン「手」にインスパイアされた作品とか。

 

 

ちなみに、著者は有名な俳優の父。

 

ja.wikipedia.org

 

予備知識なしで『図書』の「大泉黒石」を読み進めていたので、

2021年8月号「『血と霊』の映画化」末尾で、

この人がだったかを知ってアッとのけぞってしまったのだった。

 

www.iwanami.co.jp