岩波書店『図書』の連載、四方田犬彦「大泉黒石」を愛読していて、
肝心の作品が気になったので、現在比較的入手が容易な古書を購入。
それなりにおどろおどろしいものを期待していたが、
意外にアッサリ、薄味の(?)選集だった。
■ 戯談(幽鬼楼)
北京にて、新聞記者・湯田町金太郎が語り手の「私」に聞かせた怪談。
龍洞亭なる宿の52番室に現れる、妻に裏切られた男の幽霊の話。
■ 曾呂利新左衛門
許婚に裏切られた嘉一郎は彼女を殺したが、
その夫となっていた米問屋の奉公人・市蔵に恨まれ、
追われる身となった――。
※嘉一郎と市蔵の再会シーンは素晴らしくグランギニョレスク!
■ 弥次郎兵衛と喜多八
金を融通してくれという弟分・喜多八の頼みを断るために
弥次郎兵衛が考えた長い言い訳。
■ 不死身
平壌を旅した小説家が宿の主に教えられた書物の中の美しい妓生
李桂花に興味を持ち、当人に会って聞き出したという話。
■ 眼を捜して歩く男
困窮し、黄龍寺に泊めてくれと言って現れた画家。
その異様な作品は……。
亡妻の美貌をキャンバスに写し取ることに命を懸けた男の物語。
■ 尼になる尼
尼僧になり、還俗して富豪に嫁ぎ、幸福に暮らしていた女性が、
大切な宝石を愛する夫の誕生祝いに贈ろうとしたのがきっかけで、
自身の秘密を知る。
■ 青白き屍
脱獄囚ロザノフの逃避行と彼の罪状。
オチはタイトルで想像出来てしまった……。
■ 黄夫人の手
長崎が舞台の怪談。
(旧制)中学生・藤三は
上海からやって来た転入生・黄廛来(ウォンテンライ)と親しくなったが、
彼の実母は窃盗と殺人の罪で刑死していた。
廛来の亡母の呪いは藤三にも害を及ぼし……。
※金に困った藤三が古書店に本を売り、
伝票を見ると「黄夫人一冊、金六十五銭也」「黄夫人一冊、金三十六銭也」
……と書かれていた、というシーンが一番怖い。
モーパッサン「手」にインスパイアされた作品とか。
ちなみに、著者は有名な俳優の父。
予備知識なしで『図書』の「大泉黒石」を読み進めていたので、
2021年8月号「『血と霊』の映画化」末尾で、
この人が誰だったかを知ってアッとのけぞってしまったのだった。