どうやら一番最初に接したらしい倉橋由美子作品、
何度も読んでいる『ポポイ』を、また改めて。
旧かな遣い表記が奇天烈さに拍車をかける、前世紀末における近未来SF中編。
政治家の娘・舞は婚約者の佐伯に頼まれて生首を預かった。
舞の祖父で政界から退いた元総理大臣の居室へ
セキュリティを突破して乱入した二人組のテロリストの一方の介錯された首が
延命装置に繋がれており、
佐伯が在籍する《日本AI》は肉体を失いながらもまだ死んでいない彼から
情報を引き出したいと考えているのだった。
舞は佐伯と結婚するまでの暇潰しも兼ねて、
存外整った顔立ちの首にポポイとギリシア風の名前を付け、対話を試みる。
桂子さんシリーズ番外編で、
才色兼備の老女・山田桂子の内縁の夫である入江晃の孫娘・舞の物語。
海辺の宿《松籟閣》で繰り広げられた〈シュンポシオン〉から数年(?)後――
2010年代後半~2020年代前半(??)――
どうにか壊滅を免れたらしい日本で起きた時代錯誤な事件の顚末が語られる。
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想い人を独占することの不可能さに懊悩し、
大して好きでもないが自分を好いてくれてはいるらしい別の男と
一緒になるしかないのか――と考える舞と、
彼女の愛の対象で「宇宙と繋がって神様になってしまった」従兄、
スーパー・ノヴァの慧、そして、哲学的思索に耽りつつ、
知性も教養もさほど身に着かないまま肉体を失って思考するだけになった生首・
ポポイの三角関係……のようなもの。
【気になった点】
①舞の父は政治家・栗原剛(入江晃の次男)のはずだが、
舞の苗字が栗栖になっている(p.77)。
※作者の凡ミスだったのか……それにしたって編集者か誰かが気づけよ。
②慧は、もう祖父・入江晃の別荘でもなくなった、
かつての《松籟閣》を拠点としている模様。
③ポポイ、オイモイといったギリシア語風の名の出典は
西脇順三郎の詩であることが『毒薬としての文学』によって判明。
西脇氏の詩がどんな音楽に似ているかと言われると困るが、その詩の全体はバッハの全作品群に匹敵する、ということにしておく。[略]おまけに、現代日本語という楽器で演奏されるこの音楽には時々奇声がはいる。「ポポイ」「パパパパーイ!」「オイモイ!」
――大脳の音楽 西脇詩集(読売新聞1981年3月2日)
『毒薬としての文学』p.267
多分これからも折に触れて読み返すのだろうなぁ……。


