折に触れ読み返す昭和の隠れた(?)名作漫画。
宮脇明子作品における My Best。
また通読したので(一体何度目だろう?)一筆。
樋口真澄は15歳にして才色兼備と呼ばれるに相応しい娘だが、
不幸な境遇のせいでピアニストへの道を閉ざされつつあった。
が、財閥の令嬢・弾正容子と出会い、音楽学校にも合格して、
運命は自分の手で切り開くと決意――と言うと、
健気なお嬢ちゃんのサクセスストーリーみたいだが、
そんな甘ったるい話ではない。
これは芸術のために悪魔に魂を売り渡した少女のピカレスク・ロマンなのだ!
世間知らずで無邪気な容子に憎しみを覚えた真澄は、
上辺は学友として仲良くしながら、
彼女の幸せを毟り取ってやろうと奸計を巡らし、
弾正家に寄宿することに成功する……。
真澄は様々な悪事を働くのだけれども、ページを捲りながら手に汗を握りつつ、
「もっと、もっと!」と、
罪悪感を持たないサイコパス美少女を応援したくなってしまう不思議。
それはきっと、彼女を取り巻く人々も
決して善良で誠実とは言い切れないせいかもしれないし、
彼女の幸福の絶頂の後には破滅が待っていることを、
多分最初から頭の隅で理解していたからかもしれない。
映像化されても面白いと思うが、
リアルな生活感が滲まない方が好ましい気がする。
いっそ舞台をヨーロッパに置き換えてしまう、
とかね……(うう、観てみたい)。