深川夏眠の備忘録

自称アマチュア小説家の雑記。

ちばひさと四番勝負!【前編】

古いマンガ一人思い出し祭を経て、

未読作が気になったので絶版につき中古品を探すという、

ワタクシあるあるの巻。

今回はちばひさと

検索してもまとまったデータが出てこないので、

手持ちの書籍に記された情報を信じるしかない――ということで、

ずっと実家で寝かせておいて、ある日ふと思い返し、

母に宅配便で送ってもらった『林檎料理』所収の《愛をこめてQ&A》及び

《ちばひさと全調書》を確認。

それによると、著者は1958年生まれの女性で、

アシスタントや同人誌活動などを経てメジャーデビューし、

1980年代に何冊か単行本が出ていた模様。

他にもイラストの仕事などがあった様子。

せっかくですから、今般購入の3冊と併せてこの『林檎料理』も紹介します。

刊行が古い順に。

長くなるので前後編に分けます。

 

 

『林檎料理』1984年9月刊(東京三世社)。

短編集『林檎料理』カバー。

カバー折り返しに著者ポートレート(撮影者=名香智子!)。見返しに直筆サイン。

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口絵としてイラスト3点(3ページ)、1ページ漫画「アンドロイド」、

絵物語「伝説」(4ページ)――ここまでは目次に記載されていない。

『林檎料理』目次。

 「グリーンメッセージ」1984小学館プチフラワー12月号掲載と後に判明)

  核戦争後の世界を生き延びた人々は、

  ヒトとイヌやネコなどの動物との混合体になったが、やがて……

  というSF学園恋愛もの。

 「花ざかりの午後」(初出不明)

  不老不死の吸血鬼である〈伯爵〉が

  長い旅の道ずれにした孤児の少年フィリーには

  幽霊を引き寄せる能力があった。

  ちなみに口絵の「伝説」は少し成長した(?)フィリーのある日の出来事。

 「林檎料理」(初出不明)

  タイトルは大手拓次の詩に由来(引用あり)。

  アルジェリア動乱を盛り込んだ悲恋もの。

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 「黒の神話」(初出不明)

  両親の不仲、満員電車での通学、受験問題、等々で悶々とする

  男子高校生・園田圭一は、

  車内で見かける他校の美少年に心を奪われ……。

  これが一番刺さる、かなぁ。

  圭一にとって現実逃避のためのアイドル、アイコンは誰でもよく、

  たまたま可愛い女の子が目につけば、そちらに惹かれたのではないかと。

  ただ、彼はトーマス・マンヴェニスに死す』なぞを

  耽読していたので(映画も観たかしらん)

  和製タジオのような七瀬くんに心を奪われてしまったのでしょう。

  後から考えると山岸涼子ハーピー(『天人唐草』収録)と

  構造が似ているな。

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 「鈴蘭」(初出不明)

  立派な庭のある借家で一人暮らしをする童話作家・伊藤まり は、

  ある日無断で入り込んで来た美少年・柚木由宇(小学6年)から

  鈴蘭の香りを嗅ぎ取り……。

 「果樹園」(初出不明)

  エドガー・コーダー公爵の婚約者となったシーラ・ローレンス姫は、

  彼の下劣な所業を噂に聞いて真偽を確かめるべく

  従者と共に城へ乗り込んだが、そこで目にしたのは――。

  淫靡。

  果実をたわわに実らせるには

  土に養分をたっぷり与える必要があるのです。

 「花子さんの日」(初出不明)

  母に厭世的な愚痴を聞かせ続けた女子高生・花子さんは、ある日……。

 

 巻末の解説は歌手・大野方栄による。

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素材が美しく盛り合わされたサラダボウルのような本。

年を取って自分の理解力が追いついたのか、

昔より今の方が味わい深く面白く受け止められている気がする一冊。

 

 

『妖生伝説〈ラ・ヴァモント〉』1986年12月刊(東京三世社)。

連作短編集『妖生伝説』カバー。あの方によく似ておいでだ……。

カバー折り返しに愛猫様!?(きゃわわわ🐾)

美しい目次。

 「妖生伝説」

  不老不死の吸血鬼(見た目は青年と中年の間くらい)

  アルベール・アルトマン伯爵は孤児院を脱走した少年フィリーと

  少女ファデットを不本意ながら屋敷に居候させることに。

  だが、フィリーの特異能力が発現してしまい……。

  早い話がパイロキネシスだったのだが、1982年に日本語版が出た

  スティーヴン・キングファイアスターター』の影響か。

  ともあれ、伯爵とフィリーは意気投合し、長旅に出るのだった。

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 「聖餐」

  冬のパリに滞在する伯爵とフィリー。

  奇怪な連続殺人事件が発生するが伯爵は身に覚えがないと言う……。

  このエピソードの最後に、ようやく伯爵はフィリーの血を吸った模様。

 「詩神(ミューズ)のいる街」

  画家ルイ・クロードは既婚者だがモデルの美女カトリーヌに夢中。

  しかし、彼女の正体は……。

  フィリーはクロード夫妻に名を訊かれて「フィリップス=アルトマン」

  と答えたので、表向きは伯爵の養子という体裁か。

 すべてをあなたに

  道に迷った少女アンリエットを止むを得ず屋敷に連れ帰ったフィリー。

  だが、その日は一族が集まってフィリーを正式に仲間と認めるための

  儀式が行われる予定で……。

  そこへ客の一人として現れるカトリーヌ。

  フィリーとはパリでの出会い以来だが、伯爵とは何と二百年ぶりの再会!

  イベントの様子は萩尾望都ポーの一族』「メリーベルと銀のばら」で

  描かれた情景に似ているが、お歴々の雑多さは、むしろ

  レイ・ブラッドベリ「集会」(『10月はたそがれの国』収録)を思わせる。

  ※萩尾望都によるコミカライズあり。

 「聖家族」

  船旅に出た伯爵、フィリー、カトリーヌ。

  カトリーヌの過去と伯爵のとんでもない特異体質が明かされる。

  伯爵とカトリーヌのファースト・コンタクトが

  チグリスとユーフラテスの岸辺だったというコマで、

  申し訳ないが、ちょっと笑ってしまった。

  ネタ元は萩尾望都銀の三角』であろう。

  それとも、この作品にインスパイアされたというZABADAKの同名曲か。

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 「やさしい鳥」

  フィリーが孤児院に入るまでの経緯。

  超能力の目覚め、そして、憐れな毒母との別離。

 

『林檎料理』収録「花ざかりの午後」(&「伝説」)の前日譚集として

後から制作されたらしいが、各編の初出その他は不明。

表紙はフィリーのはずだけれども、

『林檎料理』の《愛をこめてQ&A》《ちばひさと全調書》で

回答していらしたとおり、当時お好きだったという

マイケル・ジャクソン味(み)が濃厚ですね(笑)。

問題は副題。

手持ちの辞書その他をチェックしても綴りと意味が判明しません。

きっと妖魔・魔性、あるいは人外といった意味なのでしょうけれど、

ご存じの方がいらしたらお教えください。

後述『うさぎは眠っている』巻末の既刊案内。画は「花ざかりの午後」より。

それはさておき、

旅に出て出会いと別れを重ね、その人たちが幸福に年老いればいいと願う……

といった結構がズバリ、どツボ(笑)。

しかも、無闇に悲壮感を弄ばないと言うか、

倒錯しているが明るいとでも言うべきか、

何だかんだでハッピーエンドっぽいところにも好感が持てる。

 

【後半戦に続く】