深川夏眠の備忘録

自称アマチュア小説家の雑記。

ブックレビュー『ペンテジレーア』

ハインリヒ・フォン・クライストの短編集『チリの地震』が

なかなか面白かったので、続けて戯曲『ペンテジレーア』を。

 

fukagawa-natsumi.hatenablog.com

 

旧訳ですよ、岩波文庫1941年(!)3月第1刷/2012年2月第3刷。

旧字旧かな。

しかも昔の体裁の本って活字が小さくて……疲れました💧

実は8年半も寝かせていた積ん読本でした。

かなり昔から、

愛読書である種村季弘『吸血鬼幻想』によって存在を知ってはいて、

いつか読んでみたいと思っており、

2014年に消費税が5%⇒8%に引き上げられる寸前、

駆け込みでワラワラと様々な品を買い求めた折に、

そうだコレも……と、第3刷を購入していたのでした。

 

 

『ペンテジレーア』はトロイア戦争をベースにした戯曲で、

ギリシャ神話に登場するペンテシレイアのエピソードを脚色した物語。

女性だけの部族アマツォーネ(アマゾン)の女王の娘ペンテジレーアが

闘将アヒレス(アキレス)に恋して……という話なのだけど、内容の割に長いよ。

 

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ファム・ファタールというんでしょうか、

少しサロメに似ているかもしれない……って、順序が逆だわ。

 

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ともあれ、どうしてこの戯曲が『吸血鬼幻想』(を構成するテクスト)で

俎上に載ったか、ようやく実地に確認出来ました。

 

彼女は齒を喰ひ入らせたのだ、鎧を彼の體からもぎ取りながら、彼の白い胸のなかに齒を喰ひ入らせたのだ。(p.227)

 

これですね。

無我夢中でワケもわからず、とにかく好きだからむしゃぶりついてしまった、

みたいな。

で、後で「あたしそんなことしたっけ?」とか言っちゃう(笑)。

そして、種村先生が

接吻と(キュッセン Küssen)と噛む(ビッセン Bissen)とは語呂が合う

と訳した箇所を探しながら読み進めて、

見つからないので少しハラハラしていたら、ようやく終盤に、

接吻(くちづけ)と噛付(かみつき)と、それは平仄が合ふのだ(p.257)

が出て来て、ホッと胸を撫で下ろし。

ヴァンパイアの話ではないけれども、類似の行為が出現するドラマだった、と。

 

訳者・吹田順助のあとがきには、

一幕二十四場(おいおい……)という無茶苦茶な構成につき、

「作者自身も舞台化を期待していなかったらしいし、今後も困難だろう」

という意味の文言が綴られているのですが(1940年!)

な、なんと、2020年、新型コロナ禍の日本で実現していたというから驚き。

 

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