深川夏眠の備忘録

自称アマチュア小説家の雑記。

ブックレビュー『赤い死の舞踏会‐付・覚書(マルジナリア)』

短編集だもんで、キリのいいところで閉じて

別の本を割り込ませてしまったため、

えらい時間がかかったけれど、

読了しました『赤い死の舞踏会』。

 

 

吉田健一セレクトの短編集+ポオの覚え書き「マルジナリア」。

 

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収録作中9編は創元推理文庫『ポオ小説全集』で既読だが、

訳が違うので新鮮な感動を味わった。

 

 

ベレニイス(Berenice,1835)【全集1収録】

 青年エギアスは従妹ベレニイスと共に育ち、

 長じて彼女を愛するようになったが、その美貌は病によって損なわれた。

 やがて……。

 *

 病臥し痩せ衰えていく女の中で

 歯だけが硬質で白いまま美を保っていたことに恐怖を覚えた男。

 

影‐一つの譬え話‐(Shadow,1835)【全集1収録】

 プトレマイスの屋敷に集ったオイノスたち七人だったが、

 部屋には若いゾイロスの遺体が。

 

メッツェンガアシュタイン(Metzengerstein,1836)【全集1収録】

 反目し合う名家ベルリフィツィング家とメッツェンガアシュタイン家。

 後者の若き新当主フレデリックの前に現れた馬は

 火事になったベルリフィツィング家の厩舎から逃げてきたかと思われたが……。

 

リジイア(Ligeia,1838)【全集1収録】

 聡明で美しい妻リジイアを亡くした「私」は

 放浪の果てに出会ったロウィーナを娶ったが、

 彼女もまた病に臥してしまった。

 ある晩「私」は部屋の中に奇妙な影を見出し……。

 *

 再婚しても想いが亡妻に傾いていた私の願いが叶ったのか、

 どうなのか。

 いずれにせよ「私」は過度に阿片を服用していたため、

 一切が幻覚・妄想だった可能性も否めないのだった。

 

沈黙(Silence,1839)【全集2収録】

 《魔鬼》が墓の前で《私》に語った寓話。

 沈黙は恐怖。

 睡蓮が咲き乱れる沼地に佇む悪魔――というイメージが魅惑的。

 

アッシャア家の没落(The Fall of the House of Usher,1839)【全集1収録】

 旧友ロデリック・アッシャアからから手紙を受け取った語り手《私》は

 彼の許へ。

 神経をすり減らした彼の心の慰めになればと思ったものの、

 不調の原因は二卵性双生児である妹マデリンが重病に伏していることだった。

 ある晩、とうとうマデリンが亡くなり……。

 

群衆の人(The Man of the Crowd,1840)【全集2収録】

 語り手《私》は秋のロンドンのコーヒー店で窓辺に座り、

 通りを行く人々を観察していた。

 雑踏の中に一人の老人を見出した《私》は、その人物の挙動が気になり、

 後をつけた。

 すると……。

 

赤い死の舞踏会(The Masque of the Red Death,1842)【全集3収録】

 疫病から身を躱そうと、臣下と共に城に閉じ籠もったプロスペロ公。

 * 

 何通りもの訳で読んでいるが、これは格調高く、

 その文体によって“他人事”感が強くなり、結果、冷淡な印象を受ける。

 

アモンティラドの樽(The Cask of Amontillado,1846)【全集4収録】

 amontilladoはシェリー酒の一種。

 語り手こと《私》=モントレゾル

 自分を侮辱した酒好きのフォルテュナトに復讐するため、

 大樽を入手したと偽って……。

 *

 これもまた早過ぎる埋葬か。

 久しぶりに読んだが、

 バルザック「グランド=ブルテーシュ奇譚」を

 思い浮かべた(どちらも19世紀前半の作品)。

 

 

シンガム・ボップ氏の文学と生涯

 ~『グースゼラムフードル』誌元編集長の自叙伝

 理髪師の息子シンガム・ボップ氏はいかにして文壇に名を馳せ、

 また有名文芸誌の編集長になったか。

 既存の作品の切り貼り・剽窃を行って雑誌に投稿したが、

 編集者が誰もそれに気づかなかったため、原稿が採用され……。

 *

 細かく裁断した本のページを篩に掛ける描写に黒いユーモアを感じた。

 そう言えば、評伝、

 村上淳『エドガー・アラン・ポーの復讐』(p.95~96)に、

 

  剽窃は犯罪であるという見方は近代の産物である。

 

  剽窃が犯罪になるのは、

  私有財産権や個人主義を文明人の前提と見なす近代の建前が

  無条件に受け入れられているからこそである。

 

 と、書かれていたっけ。

 

 

覚書(マルジナリア)

 ポーが蔵書の余白に書き込んだメモ。

 切れ味鋭い箴言の数々。

 p.286-287:剽窃、――文学の掏摸 に、

  

  剽窃者というもの程厭なものは世の中にない。

  彼は他の者が受けるべき賞讃を、

  他の者のだと知って居ながら自分が受けて、

  それで胸が高鳴るのを感じるのである。

 

 とあって「ほう」と膝を打った。

 パクリは、某か創作活動を行う者が決めの一手に窮して

 切羽詰まって行うことだと考えていたが、そういう見方があったか、と。

 より倒錯的な印象を受け、また、そう考えた場合、

 公共の場でのラクガキ犯やクレプトマニアの心理とも

 通じ合うのではないかと思った次第。

 

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