『予告された殺人の記録』と同時購入しながら三年以上も寝かせてしまった
ガルシア=マルケス『族長の秋』をようやく読了。
秋だから(笑)。
[p.9~p.64]
ハゲタカが群がり、独裁者の死を察した市民が大統領府に押し掛けた。
大統領の死を喜んだ多数の者には厳罰を、
悲しんだ数少ない者には褒賞を与えることにした大統領。
[p.65~p.119]
大統領の死の噂が広まり始めた頃、彼は民衆の前にひょっこり姿を現した。
彼は美人コンテストの優勝者マヌエラ・サンチェスに一目惚れし、
百年に一度の来訪者である彗星をプレゼントしようと豪語。
翌週は日蝕が起きたものの、大統領はその闇の中でマヌエラを見失った。
[p.121~171]
大統領は誰が自分に刺客を差し向けたか考えるうち、天啓のように閃きを得、
聖守護天使を祝う夕食会にその人物を馳走として一同に供した。
[p.173~224]
甲斐甲斐しい看病も虚しく、母ベンディシオン・アルバラドは無残に病死。
大統領は勝手に列聖の布告を発し、修道士・修道尼らを追放。
その際、修練女レティシア・ナサレノを見初め、正妻に。
[p.225~289]
愛妻レティシア・ナサレノの妊娠・出産。
しかし、レティシアは多くの人の不興を買って、愛児もろとも惨殺された。
首謀者らを処刑する手筈を整える中、大統領はハンサムな伊達男、
ナチョことホセ・イグナシオ・サエンス=デ=ラ=バラと出会った。
大統領に引き立てられたナチョは期待以上の活躍ぶりで非道の限りを尽くした。
[p.291~365]
外債の利子と相殺する形で、大統領は領海をアメリカに譲り渡し、
軍の蜂起によってナチョは処刑された。
だが、疫病で民衆の多くが命を落とし、国は荒廃の一途を辿り……。
クーデターで三軍の最高司令官に推挙され、
新大統領となった男は英国艦隊を後ろ盾としていたが、
それを可能ならしめたのは領事を相手に夜毎ドミノ勝負に勤しんだためだった
――という、中南米の(架空の国の)独裁者、名前のない大統領の人生の黄昏。
側近たちが自分を尊敬も信頼もしておらず、
ただ権力の犬に過ぎないことを察しながらも黙々と道化を演じ続けた男の、
暴虐と表裏一体の不安と孤独
(お決まりの強迫的な就眠儀式がよくそれを反映している)、
老境に至ってもずっと幼児のような内面、
シングルマザーだった母への愛情と尊敬と甘えが、
複数の人々の入り組んだ語りで描出されている。
一つの章が一段落で綴られた極めて息の長い文章で、
視点が様々に切り替わるので、初めは少々読みにくかったが、すぐに慣れた。
未成熟なまま取っ散らかって内部から腐っていく小国の衰亡記に
相応しい語り口ではなかろうか。
一国の頂点に据えられたと言っても、特別な能力があるわけでなく、
むしろ凡庸な人物だからこそ、
特権階級の連中にいいようにあしらわれるべく
神輿として担ぎ上げられたのではないかと思わされる情けない大統領。
政権の運営には占いや母の何気ない言葉を必要とするし、
身体的なコンプレックスは強いし……といったところで、
現実の現代社会にも生き残っている独裁者の内情なぞ、
案外こんなものかもしれないと考えたが、マザコンで非識字者
(ちなみに、影武者をより自分に似せるため、
リテラシーを抹消するよう迫ったが成功しなかった)、
一目惚れして強引に娶った若い妻(元修道女見習い)から
読み書きを教わったエピソードなど、
不快な人物だというのに、どこか微笑ましく、可愛げを感じてしまった。
一つだけ不満を述べるなら、改訂版になってカットされたと思しい
翻訳者による解説も載せておいてほしかったな。
うーむ、『百年の孤独』も読まねばね……。