横溝正史『殺人鬼』読了。
原作を読みたくなったので、各編が収録されたこの本を購入。
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でも、ブクログ本棚には杉本一文画伯の表紙が出るkindle版を登録。
■殺人鬼(1947年~1948年)
探偵小説作家・八代竜介は、ある晩、
駅でたまたま出会った美しい女性・加奈子に送ってくれと請われ、
道中、物騒な世間話で彼女を怖がらせた。
彼らと、加奈子を迎えに出てきた夫の賀川達哉の三人は、
不気味な義足の男を目撃。
しかし、実はその男・亀井淳吉が戸籍上の加奈子の夫で、
達哉とは駆け落ちしてきた不倫の間柄だという。
更に達哉の本妻・梅子も登場し……。
奇怪な関係に巻き込まれ、
殺人事件現場にまで踏み込む羽目になった竜介だったが、
加奈子を見舞った帰路、下水路を漁っているおかしな男と遭遇。
彼こそは金田一耕助――。
色・金・名誉欲が縺れ合った忌まわしい人間模様を
飄々と解体する名探偵の鮮やかな手捌き。
■黒蘭姫(1948年)
金田一耕助が銀座の裏手の貧弱なビルの一室に
探偵事務所を構えて最初の事件。
エビス屋百貨店の宝石売り場に現れては万引きをする、
黒いヴェールを被った女性。
事情を知るスタッフは黙って見過ごし、後の処置に任せていたが、
新参者が「泥棒だ」と騒いだため、殺人事件に発展し……。
自身に愛情を注いで庇護してくれる人物を持たない女性の悲哀が滲む。
■香水心中(1958年)
香水会社を興して栄華を極める老女・常盤松代に請われ、
等々力警部を伴って軽井沢へ向かった金田一探偵。
優雅な避暑のはずが、心中事件の捜査を開始することに……。
こちらは1980年代にテレビドラマ化されたそうだが、
人間関係が入り組んでいる割に犯人にはすぐ見当がつき、今一つ。
ともあれ、
せっかくの休暇が台無しになってしまった警部が気の毒(笑)。
■百日紅の下にて(1951年)
戦争が終わって、佐伯一郎が焼け落ちたかつての自宅跡に戻ってきた。
亡妻が愛した百日紅を眺めて思い出に浸るためだった。
そこへ雑囊を背負った復員兵らしき男がやって来て、
死んだ戦友のメッセージを伝えたいと告げたが……。
若く美しい妻を――自らそのように育て上げ――熱愛しながら
戦争によって仲を引き裂かれた男の妄執と誤解。
非常に愉快なドラマ版を先に堪能したので、
読みながら頭の中で映像が再現されて楽しかった。
全4編中、これが一番私好みかな。