深川夏眠の備忘録

自称アマチュア小説家の雑記。

岸裕子四番勝負(笑)

夜更かしあるあるですが、調べ物をしていて、

気づいたら遠く離れた場所で何やらポチポチ買い物をしてしまった――

という例のアレです。

今回は岸裕子の絶版コミックスを中古で買ったの巻。

 

ja.wikipedia.org

 

この方も年齢的には紛れもなく24年組のはずですが、

今般、検索するまで、その点は存じ上げませんでした。

 

ja.wikipedia.org

 

萩尾望都 or 竹宮惠子先生のいずれか、

もしくは双方と親しく行き来していた漫画家さんじゃないと、

基本的にあの冠は付かなかったということかもしれませんね。

 

古いマンガについて、ああでもない、こうでもないとネットサーフしていて、

フッと「虞美人草」という作品を思い出し、

美少年の男娼が、ひなげし模様の赤いガウンを着て客を取る話だったっけか?

ああ、確認したい!

……で、収録本を買おうとしたら、お値打ちでっせ、セットでいかがっすか?

というサイトに行き当たったので、4冊まとめて購入した次第。

 

いずれも朝日ソノラマサンコミックス・ストロベリー・シリーズ。

ですが、掲載誌はソノラマ系の雑誌に限らず、

発表から大分時間が経ち、版元を跨いで刊行された趣もあり。

出た順に並べると(これが収録作の古さ/新しさと合致しないのだ……)――

 

千の花 (サンコミックス)

千の花 (サンコミックス)

 

 

『千の花』1984年2月刊。

花をモチーフとしたシリアスな短編マンガ集+コメディ掌編。

購入した4冊の中では断トツで面白かった。

収録作は、

 

  千の花(『DUO』1984年1月号)
  薔薇夫人(『デラックスボニータ』1983年5号)
  沈丁花(『JUNE』1983年№9)
  虞美人草(『LaLa』1981年1月号)
  イマジネーション(『JUNE』1982年№6)
  似た者同志(『JUNE』1982年№8)

 

作者が本音を吐露した(?)あとがきエッセイ風の1ページもあり、

これが興味深い。

男性の同性愛を描きたかったが掲載誌の都合で男女の三角関係になったとか、

逆に、思い切って描いてよかったときに照れ(恥じらい?)が生じて

婉曲表現になったといったニュアンスの。

いずれにせよ、現代の読者の感覚からすると、

さほどショッキングな内容ではないのだが、

発表当時は一部で物議を醸したに違いない、という印象。

画風は昔(=同時期?)の木原敏江に近いかもしれない。

そして、異様な熱気を放つキャラクターの多弁さは、

赤江瀑のいくつかの小説を連想させる。

赤江作品から醤油っ気を抜いてバターを投入したみたい……って、違うか(笑)。

 

 

マルゴォの杯 (角川文庫 緑 376-2)

マルゴォの杯 (角川文庫 緑 376-2)

  • 作者:赤江 瀑
  • 発売日: 1979/04/01
  • メディア: 文庫
 

 

気になり出したら止まらなくなった「虞美人草 ‐ひなげし‐」で、

美少年男娼シモンが纏っていたのはガウンではなく、母の形見の

ひなげし模様の振袖でした(ってか、あんた着た切り雀よ……)。

 

最ものけぞったのは巻頭の表題作「千の花」。

日舞の家元の二卵性双生児の姉弟が稽古に励んでいるのだが、

跡目を継ぐのは姉と決まっていて、弟は好きで踊っているけれど、

ずば抜けた才能がないのは本人も周囲も承知。

ところが、この家に相次いで不幸が起こり、急転直下――。

母親が名誉欲と嫉妬の鬼になって子を苛む狂気。

当人が諦めとも納得ともつかない心境に至って自分を押し殺す様を見て、

しばらく前に読了したキングズリイ・エイミス『去勢』を思い出した……

と言ったら、何が起きたかお察しいただけるだろうか。

 

 

 

『白蓮』1986年2月刊。

シリアスとコメディを取り混ぜた短編マンガ集。

収録作は、

 

  ちょっとミステリー パート1(『グレープフルーツ』1982年6号)
  ちょっとミステリー パート2(同1983年9号)
  白蓮(同1981年創刊号)
  金木犀(同1981年2号)
  薔薇水(同1982年3号)
  ハピネス(同1985年23号)
  シャル ウィ ダンス(『ジャム』1985年3月号)

 

内輪ネタ系エッセイマンガは巻末がお約束だと思うが、のっけから(笑)。

仕事は順調だがプライベートでは心の隙間が気になって……といった、

作者自身がモデルと思しい漫画家の喜怒哀楽。

表題作は(多分)作家で病に侵された男・隼人と、その友人・省吾、

旅芸人一座で酷使されていたが隼人に引き取られた少年・花緋の、

言うなれば男だけの三角関係の物語。

親友に(隠しているが)友情以上の感情を抱いている人物が、

親友が大切に想う相手(≒美少年)を凌辱するという、

先に読んだ「虞美人草」と共通のフォーマット。

背景に咲き乱れるのは白木蓮で、その別名がタイトルの白蓮。

キャラクターの内心の葛藤が、平凡な人間にも理解可能な範疇に収まっているので、

無茶苦茶な話ではあるものの、普通に感情移入できて、

そこが描き手として巧みなところだと思う。

 

ところで、最後の社交ダンスもの「シャル ウィ ダンス」の掲載誌『ジャム』

っていうのだけ、詳細不明ですが、どなたかご存じでしたらお教え願いたい。

 

 

『金色の星』1988年2月刊。

現物と書影が違いますね(シリーズも《ポケットコミックス》だし)。

そのうち画像が正しく上書きされる日が来るかもしれませんが、

本物はこっちだ(笑)!

 

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岸裕子『金色の星』(朝日ソノラマサンコミックス・ストロベリー・シリーズ)書影

 

中身にこんな半裸のシーンはありませんけど(笑)。

収録作は、

 

  金色の星(『別冊少女コミック』1973年10~11月号)
  ラブリー・ジーン(同1973年7月号)
  やさしい風(同1975年2月号)

 

その時代の読者に好まれた、俗に言う「赤毛もの」ってヤツでしょうか。

今はこういう呼び方自体、

差別的な響きを帯びるので用いるべきではないとも言える気がしますが。

欧米が舞台で、金髪碧眼の美少年・美少女たちのドラマなのだけど、

キャラクターの行動様式や基本的な思考回路は純和風、みたいな(笑)。

ウェットですなぁ、みんなよく泣くし、下手するとすぐ死ぬし(爆)。

表題作は、ガッと圧縮して言ったら、

中性的な美少年が大切な親友(男子&女子)二人のために

無理を押して頑張る話、といったところ。

 

 

『僕のお嬢さん』1988年5月刊。

収録作は、

 

  僕のお嬢さん(『別冊少女コミック』1974年11月号)
  花はさくらぎ(同1975年4月号)
  恋は魔術師(同1974年8月号)
  キッスの味は!?(同1974年2月号)

 

表題作は、超絶ワガママだが可愛げもあって、どうにも憎めないお嬢さん

但馬夏子ちゃんと、彼女の想い人やら誰やらの恋の鞘当て的なドタバタ物語。

同時代の大島弓子作品の一部に似た雰囲気がないでもないが、

あれほどの繊細さは感じられない、ご都合主義的な世界。

でも、その時代の「マンガ好きの女の子たち」には、

ほぼこんな感じで充分だったのだろう、という気がするし、

逆に、やっぱり大島弓子って凄ぇよな!

と、直接関係のないところで感心してしまったのだった(笑)。

 

全て緑になる日まで (白泉社文庫)

全て緑になる日まで (白泉社文庫)

  • 作者:大島 弓子
  • 発売日: 1996/12/01
  • メディア: 文庫
 

 

ほうせんか・ぱん (白泉社文庫)

ほうせんか・ぱん (白泉社文庫)

 

 

褒めるべき箇所を挙げるなら、

「花はさくらぎ」に登場する軽薄な三人組が

単なる美少年s(複数形)であることを超えて、

性自認は男性でヘテロだが女性っぽい装いを好むキャラクターである点か。

「恋は魔術師」ヒロインの弟も同様だが、

好きなファッションで堂々と闊歩する姿がカッコイイ。

時代が追いついてきたかもね。

 

しかし、軽く胸やけが……(笑)。