深川夏眠の備忘録

自称アマチュア小説家の雑記。

ブックレビュー『羊の木』

ずっと頭の隅で気にかけながら、何となく手を出しそびれていたマンガをまとめ買い。

 

タイトルは主人公の職場=市長室に飾られた絵に由来。
魚深(うおぶか)市長の鳥原の家に受け継がれてきたもので、
昔のヨーロッパで未知の綿花を「羊の生る木」だと想像して描かれた

バロメッツ(Barometz)の一種という。

 

ja.wikipedia.org

 

地方の自治体が移住を受け入れた元受刑者たちと、彼らを見守る市長とその親友ら、
そして、事情を知らない周囲の人々の錯綜した人間模様が描かれる。

 

羊の木 コミック 全5巻完結セット (イブニングKC)

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物語の舞台「魚深市」は過疎化と高齢化が進んでいると冒頭に記されているが、
人口は13万人というから、地方の小振りな自治体の中ではまあまあの規模。
私は神奈川県民なので、県内で喩えると海老名市や座間市クラスだから、
悲観的になる必要はなさそうに思える。
現に劇中に多く登場するのは30~40代の働き盛りの人たちとその子供らで、
充分に将来性がありそうなのだが……。

 

利己的かつ暴力的な人物の無体な行動は、

許されないことではあるが理解は可能である。
読んでいて異様な印象を抱いたのは、

地域の奇祭「のろろ祭り」のシンボルで、怪魚の姿をした「のろろ」のマスクを被って

町を蹂躙しようとする犯人の《動機》であり、
別件になるが、妻とその不倫相手に制裁を加えようとする
教育委員長の愚かで無謀な破壊行為だった。
(↑コイツが一番気持ち悪いぞ……)

 

それにしても「のろろ」とその従者たちって、まるで

ラヴクラフトが描いた「インスマス面(づら)」ですわな。

いや、ガチの魚か(笑)。

 

dic.pixiv.net

 

他者の過ちに理解を示す鳥原市長の娘・智子の気丈さや、
仏壇店の娘で身体的にも精神的にもタフな女子高生・理奈(←マジつおい!ww)が、
いかにも健全に映る。

 

しかし、贖罪と救済の枠組みから零れ落ちた者には、どう対応するべきか。
これは作中だけでなく、現実を生きる我々にとっての課題とも言えそうだ。

 

羊の木(DVD通常版)

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映画もそのうち観てみたいが、かなり違った話になっていそうな予感が……(笑)。