深川夏眠の備忘録

自称アマチュア小説家の雑記。

ブックレビュー『血蝙蝠』

由利先生シリーズのドラマ化に合わせて、

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再登場した関連本を購入、まず、この『血蝙蝠』から読み始め。

1938~1941年に発表された短編9編。

血蝙蝠 「由利先生」シリーズ (角川文庫)

血蝙蝠 「由利先生」シリーズ (角川文庫)

 

 

ネタバレなしで全編についてサラッと。
★には名探偵・由利麟太郎&新聞記者・三津木俊助が登場。

 

■花火から出た話
 昭和13年3月『週刊朝日特別号』掲載。
 船員・風間伍六が街に戻って巻き込まれた、
 猫目石の指環を巡る珍事、そして、可憐な令嬢との恋。

 

■物言わぬ鸚鵡の話
 昭和13年10月『新青年』掲載。
 マヤが交際相手から贈られたオウムは舌を切られていて、
 少しも口真似をしなかった。
 落胆する妹のため、兄が経緯を調べると……。

 

■マスコット綺譚
 昭和13年11月『オール読物』掲載。
 縞瑪瑙のペンダントをお守りにした途端、
 スターダムにのし上がった女優・青野早苗は、
 青年実業家から愛人になれと迫られたが……。

 

★銀色の舞踏靴
 昭和14年3月『日の出』掲載。
 銀色の靴を履いた美女を襲う犯人の正体を名探偵・由利麟太郎が暴く。

 

■恋慕猿
 昭和14年5月『現代』掲載。
 愛らしい猿を伴ってカフェを訪れる寂しげな男の過去。

 

★血蝙蝠
 昭和14年10月『現代』掲載。
 鎌倉に避暑に来ていた若者たちが肝試しを行って死体を発見し……。
 三津木俊助と由利麟太郎が真犯人を追い詰める。

 

■X夫人の肖像
 昭和15年1月『サンデー毎日特別号』掲載。
 展覧会に出品される『X夫人の肖像』が
 失踪した知人女性に似ていることに気づいた夫婦。
 その絵が公開早々、何者かに盗まれた――。

 

■八百八十番目の護謨の木
 昭和16年3月『キング』掲載。
 婚約者に掛けられた殺人容疑の謎を解いた女性は、
 彼が逃げたはずのインドネシアへ――。

 

■二千六百万年後
 昭和16年5月『新青年』掲載。
 作者・横溝の夢想が綴られたSFの一種だが、時世故か物騒な結びに。

 

収録されているのは、
日中戦争勃発によって江戸川乱歩らの探偵小説が検閲を受け、
自由に執筆できなくなり、当局に睨まれないよう
スパイものにシフトせざるを得なかった時期の作か。
理由・動機はどうあれ、
日本人が同胞を殺すというストーリー展開が、けしからんと
咎めを受けたとか〔参照:論創社『守友恒探偵小説選』〕。
とはいえ、ここでは殺人事件も起きているのだが、
なるほど、さほど猟奇的な展開ではないのだった。