名探偵・金田一耕助の推理が冴える中編3編。
BS-NHKのドラマ「貸しボート十三号」(池松壮亮主演)を観て購入したのは
昔の角川文庫(古書)。
現行のkindle版の表紙はこんな感じ(いずれも杉本一文画伯による)。
相棒を岡山の磯川警部が務め、東京の等々力警部が務め、
最後は両者が相まみえるという趣向の一冊で、ファンには楽しい内容。
「湖泥」
岡山県の、とある農村。
ダム湖の畔。
元は同じ一つの家だったが今はいがみ合う仲だという北神・西神両家の跡取りが
奪い合いを演じた若い女性・御子柴由紀子が失踪。
雑然とした都会は人間同士の結びつきが弱く、一見平和そうな田舎の方が、
ふとしたきっかけで恐ろしい出来事が起こる可能性が高いと語る磯川警部。
一同に白眼視され、いつしか風景に溶け込むように存在感を失った人物の
復讐とも取れる事件。
「貸しボート十三号」
隅田川の河口に漂う貸しボートの中に、男女の凄惨な死体が……。
名門大学の強豪ボート部を巻き込んだ、
恋と友情を巡る事件の真相を金田一耕助が暴く。
それでいて「推理というほどのものはなかったんです」(p.227)と嘯く
飄々とした名探偵なのだった。
「堕ちたる天女」
トラックの後部から脱落した荷物は、死体を石膏で固めた像だった……。
怨恨や、大切な人を守ろうとして行き過ぎた行動を取ったがための殺人には
酌量の余地があるが、
金銭目的とは言語道断、ゲスの極み――と断罪する名探偵。
それは至極もっともなのだが、
下世話過ぎる犯行動機に呆れ、疲れ果てた金田一のセリフ、
「ぼく、かえります。かえって酒でも飲んで寝るんです」(p.357)には、
ちょっと笑ってしまった。