深川夏眠の備忘録

自称アマチュア小説家の雑記。

ブックレビュー『香水――ある人殺しの物語』

ドイツ人がドイツ語で描き出した
18世紀のフランスが舞台の奇想天外な物語。
雅やかなタイトルだが、中身は相当にエグい(いい意味で)。

 

ある人殺しの物語 香水 (文春文庫)

ある人殺しの物語 香水 (文春文庫)

 

 

未婚の母から望まれずに産み落とされた男児
ジャン=バティスト・グルヌイユという名を与えられ、
修道院などで養育された後、皮鞣し職人の見習いとなったが、
生まれながらにして類稀な嗅覚に恵まれ、
あらゆる匂いを嗅ぎ分ける能力を持っていた。
彼はパリで評判の香水屋バルディーニの弟子となり、
精油を調合し、頭の中に立ち込めていた無数の香りを
香水として世に送り出すまでになったが……。

 

言葉や絵筆でなく、香りによって
自身の内に渦巻く物語、あるいは渇仰のイメージを現実化せんと試みた青年。
目的のためには手段を選ばず、
関わった人々をほぼ漏れなく不幸の谷に突き落とす
“蛙男”(グルヌイユとは「蛙」の意)の一代記。

 

華麗な調香の世界の話かと思いきや、
非常に下世話で人間臭く、ゲスい小説だったので、
ヘラヘラ笑いながら読んでしまった。

 

訳者文庫版あとがきに曰く、映画の中で匂いをどう表現するのか、
「やはり映像よりも、活字を通しての想像にこそふさわしい」
とあり、私もそう思った。

 

 
けれども、文章で香り/匂いを表現するのは、
味について書くことに輪をかけて難しいとも言えよう。