深川夏眠の備忘録

自称アマチュア小説家の雑記。

最近書いていますか?‐2022②

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上記①の後どうなったという話ですが。

2月は(多少、書き進めはしたものの)なんとなく気が乗らず、

ぼやーっとしたまま3月に入り、途端にスイッチオン!

で、KAC2022に邁進したのでした。

 

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狂騒の後、パッと元に戻りたかったのですが、

家族の都合などがありまして……生活のリズムというかサイクルの

変更を余儀なくされ……以前も経験したことですけれども……

お弁当を作って持たせる生活に突入!

 

 

しかし、自分で言うのもナンですが、

前にやっていたときより今の方がずっと出来がいいです(笑)。

食べさせられる側も満足してくれている風なので、まあいいかな、と。

 

で、電子書籍掌編集『calendario』用の書き下ろし執筆の続き。

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電子書籍『calendario』表紙画像。

 

ありきたりな素材を、

いかにもったいぶって美々しい料理に仕立て上げようかと腐心。

その手間が楽しい今日この頃。

 

ブックレビュー『夜の来訪者』

岩波文庫レスコフ真珠の首飾り』の古本を買って(しばし積んで)

読み始めたら、巻末の既刊案内が気になって。

 

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映画館へ行って予告編を見て「おお」と思って後日……っていうのと

同じパターンですね、わたくしあるある。

これまた古書で(新品の在庫がどこにも見つからなかったので)

プリーストリー『夜の来訪者』を購入、読了。

 

 

小説だと思っていたら戯曲だった(笑)!

が、読んでみるとなるほど戯曲ならではの面白さ。

小説だったら短い話のわりに視点があっちこっちへ行き来して

リーダビリティが低くなるに違いないから。

 

舞台は1912年、イギリスはミッドランド地方北部の工業都市ブラムリー。

ある春の宵、裕福な工場経営者の家。

アーサー&シビル・バーリング夫妻の娘シーラと

ジェラルド・クロフト青年の婚約を祝う家族の食事会。

列席者は他にバーリング夫妻の息子=シーラの弟エリック。

そこへグールと名乗る警部がアポなしで現れ、

和やかな雰囲気を乱されて不機嫌になるアーサー。

警部は服毒自殺を図って二時間前に病院で死亡した

エヴァ・スミスという女性について話し始め……。

 

警部に詰め寄られる五人全員が、

それぞれに後ろめたさを抱えており、一問一答ごとに、

見るからに幸福そうなブルジョワジーの闇の部分が――

あたかも切り裂かれた皮膚から転(まろ)び出す内臓のように――

露呈する。

一同にとって胃が痛むような時間が過ぎ去った後、

めでたしめでたし、ではなく「話はこれからなんだが」といった雰囲気で、

ミステリのはずがホラーの様相を帯びて終わるところも素晴らしい。

 

いやー、ジェラルド、疑ってゴメン(笑)!

大体、途中で持ち場を離れて戻ってくるヤツって怪しいからねww

 

「あらゆる贅をつくして――しかも沈まない、絶対に沈まない」

タイタニック号(≒ブルジョワジーの最新アミューズメント)が

来週出帆する、と序盤で主人アーサーの口から語られるのが

何とも皮肉が利いていて愉快。

 

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素直に罪を認める若いシーラ&エリック姉弟には好感が持てますが、

二人の母である気位の高い――というか高慢な母シビルが

誰かに似ている気が……

ああ、アガサ・クリスティー『春にして君を離れ』のヒロイン、

ジョーンの印象に近いのかな。

 

 

わたくし、大の苦手ですわ、こういう人。

 

ところで、話を戻すと、

英国で割と新しくドラマ化されたバージョンがあるんですね。

面白そう。

 

An Inspector Calls

An Inspector Calls

  • David Thewlis
Amazon

 

それにしても素晴らしい邦題だわ……。

 

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KAC2022私的まとめ――もしくは長い言い訳。

 

終わりましたねKAC2022。

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ああ、しんどかった。

別に無理をする必要はなかったんですけど、

初参加だった去年が(チャレンジ精神的に)不甲斐なかったもんですから、

間に合いそうなら間に合わせよう――というのが

今回のポリシーでしたので。

●●賞だの何だのを獲得したいがために躍起になったのではありませんよ、

念のため。

締め切りを意識して短時日で一つ一つの課題を形にする

レーニングのようなものだったワケです。

さて、ともかく終わりましたによって、一編ずつ、

自註というか種明かしというかネタばらしというか……を、

ここでひっそり、やってみたいと思いまする。

 

■ KAC20221:お題〈二刀流〉

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本当はカフェラテ【☆☆☆】

 まず、お題を目にしてダメだこりゃと思いましたね。

 カクヨムユーザーに配信されるメルマガって、

 ほとんど読まずに削除している(←ひでェ!)ので、

 よくわかっていなかったのですが、お題をユーザーから募集して、

 そこから運営サイドが11ヶ選出したらしいのですけど……

 うーん、なんだかな、と。

 趣味・指向・嗜好の絶望的な噛み合わなさを痛感。

 いや、大谷さんはカッコイイですけどね⚾✨

 一旦諦めかけましたが、フイと

 二刀流=二重生活でいいんじゃないかと閃いたので、

 ダブルワーク青年の話にホーソーンウェイクフィールド」を

 絡めたら、どうにかなったのでした。

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 ぶっちゃけ苦手なんですけどね、ホーソーン(そんなに好きじゃない💧)。

 ちなみに、タイトル moonlighting は副業のこと。

 ショートショートは時期を見てRomancerの掌編集に収録したい考えなので、

 『掌編 -Short Short Stories-』または『月と吸血鬼の遁走曲(フーガ)』

 いずれかに組み込める条件を仕込んでおく必要があるという

 マイルールがございまして。

romancer.voyager.co.jp

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 前者に入れられるのは辞書に載っている二字熟語タイトルの作品、

 後者はタイトル自由、但し、月または吸血鬼、

 あるいはその両方がキーアイテムとなる作品――なのです。

 といった次第で、

 カタカナ題名なら少々強引にでもを捻じ込まねばイカン! と。

 ともあれ、使い回しの利きそうなキャラクターを誕生させられたのは

 よかったです。

 

■ KAC20222:お題〈推し活〉

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ビスクドールちゃうやんけ【☆☆】

 いよいよあー、ダメだこりゃと深い溜め息。

 お題を見た時点で降りようとしたんですけども、

 逆に他の書き手が多分絶対しないアプローチで書いたろか、と

 謎の闘志が湧いたので(笑)アイドル or Vtuber etc... →投げ銭

 骨董雑貨店を繰り返し訪れてお気に入りの商品に献金する

 ピグマリオンコンプレックスの幽霊の話と相成りました。

 これもカタカナタイトルになったので無理に月を出しました。

 幽霊が満月の晩に現れること&お店の経営者が IWATSUKI さん。

 タイトル antiquus は「古い」という意味のラテン語で、

 アンティークと旧友のダブルミーニング

 自己評価5段階で☆☆なのは、出来たことは出来たけれど、やっぱり

 なんで私が推し活なんてワードを使わねばならんのさ

 てな不満が燻っているからです(笑)。

 

■ KAC20223:お題〈第六感〉

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船です【☆☆】

 あのー、前回のKAC2021第三のお題が〈直観〉だったじゃないすか。

 どうしてまた、ほぼほぼ同じニュアンスの単語を持って来るかな……と。

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 しかし、去年は最低文字数1200字だったのが、

 今年は600字に低減されたので、

 かつて某n●teやパブーでやっていたミニ掌編感覚で

 サクッとトライしてみました。

 ずっと昔、祖母に聞いた話を、ふと思い出したので、

 うーんと(かな~り)加工して書いてみました。

 

■ KAC20224:お題〈お笑い/コメディ〉

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マスク(お面)の写真はなかった。なんとなく観客っぽかったので採用【☆☆】

 まずは「笑える小説」の需要が多いことに驚き、

 この時点でギヴアップしようとしたのですが、

 頭からコメディア・デラルテの名が離れない……のは、きっと

 小説の神様のお告げだ、無理にでも書くのだ!

 と気合いを入れて短時間でやっつけました。

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 出題者が求めているのは字義通り

 読者に笑いをもたらす作品なのでしょうが、

 そんなの全然書く気にならんので、

 「《喜劇》《コメディ》を題材にした奇譚」を捻り出してみました。

 オチが凡庸なので自己評価5段階で☆☆止まり。

 ただ、コッドピース小説(!)の増殖に

 微力ながら貢献出来たのはよかったです(笑)。

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■ KAC20225:お題〈88歳〉

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キャベツを食らうリクガメさん【☆】

 これもお題を見た瞬間フリーズしましたね。

 一体何をやらせたいのか、と。

 でも、ご長寿→不老長命……の連想で、あの、

 肉球でぷにぷに🐾とタブレットを操るアイツの話にしようと思いつき。

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 第四回のお題が〈お笑い/コメディ〉にもかかわらず、

 笑劇を題材にしつつコメディではない話を書いてしまったこともあり、

 こっちをコメディタッチにしてみようと。

 だって、お年寄りをdisるような話にするのはいかがなものかと

 思いますでしょう?

 しかし、本意でないのは言うまでもなく。

 タイトルも苦し紛れに猫とタッグを組む亀の名前そのまま、とか、

 早くも黒歴史風味……。

 

■ KAC20226:お題〈焼き鳥が登場する物語〉

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これはもちろん単なる美しい鳥【☆☆☆】

 どうせならこのくらいフザケてくれ、ってところですかね。

 逆にやる気が出ました(笑)。

 とは言っても時間がないので、語り手は「ムーンライティング」と同じ、

 コーヒーが美味い古書店《香風話堂(かふわどう)》店長代理。

 第一のお題に挑戦しておいてよかった……と痛感。

 人魚を食おうぜ✨という物語が既にありますので、

 二番煎じと残酷描写を回避すべく、

 都会の片隅のモヤッとした気持ち悪い話、程度に抑えておきました。

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■ KAC20227:お題〈出会いと別れ〉

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近所のスーパーで買って切った愛媛県産ブラッドオレンジ【☆☆☆】

 イベントも後半になってようやく尋常なお題。

 ですが、これは結構難しい。

 「出会い」または「別れ」だけなら簡単かもしれませんが、

 「出会いと別れ」ということは、幾許かの溜め及びが必要なので……。

 ともあれ、ジュースはイタリア料理店などで何度か飲んでいるものの、

 果実自体にはなかなかお目にかかれないと長年思っていた

 眷恋の生タロッコを初めて食した記念に、

 ブラッドオレンジをネタに一編、チュルッと。

 しかし、時間が足りない。

 そんなときは既存のキャラクターを使い回すのが一番(笑)。

store.retro-biz.com

403adamski.jp

bookwalker.jp

 私の創作上の関心は結局、こうした「今はもういない人」や

 「既に失われた物や場所」に向いているのだなと、再認しました。

 

■ KAC20228:お題〈私だけのヒーロー〉

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本当は某料理店の内装【☆☆☆】

 甘ったるいなぁ ꐦ いいえ、いいんですよ別に。

 古きよき少女マンガのノリかな、それとも、

 おぼこ娘(←死語?)&彼女にだけ優しいイケメンがイチャイチャする話が

 求められているのか?

 そんなの知ったことかぁぁぁ! と、逆張りアンチヒーロー譚。

 結果、創作人生初のラテン系掌編と相成って Viva 瓢箪から駒

 せっかくですからコソッと種明かししておきますね。

 大体こんな意味だそうです。

  アメリ(Amelio)勤勉な
  ・デシデリオ(Desiderio)憧れ
  ・ボニファシオ(Bonifacio)恩人
  ・オダリス(Odalis)裕福な
  ・コルデーロ(Cordero)仔羊
  ・パトリシア(Patricia)高潔な

 

■ KAC20229:お題〈猫の手を借りた結果〉

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寝ネコ💤【☆☆】

 これまた皆さんお好きですよね、

 ◎◎が○○した結果だの、□□な△△の末路とかいう定型句。

 やれやれ。

 だが、しかし。

 嘆息しつつも頭の中では筋書きが隆起していたのだった。

 とはいえ時間がない(いつもコレだ💧)ので、

 猫雷(ネコライ)とかブランコとか(ヴァイス、とも)

 あるいは白湯(パイタン🍜)などと呼ばれる例のネコ様に

 再びご登場願いました。

 なんだかんだで《香風話堂》店長代理は三度目の出演だ!

 ああ、お題その1で降臨させておいてよかった……💕

 

■ KAC202210:お題〈真夜中〉

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某ファミレスのモーニングだったんだよーん【☆☆☆☆】

 このお題は、ずとまよさんのファンの方の提案だったんでしょうか?

 別にどっちでもいいけど。

 これについてはすぐ真夜中のパーティを思いついて書けました。

 そして、11作中最も普段の私らしい筆致と自負しております。

 掌編はこのくらいスッキリまとまっているのがヨイよ。

 タロットカードが重要なアイテムになっていますけれども、

 KAC2022突入前に着手して、まだ終わっていない書き下ろし作品も同様で

 ……というか、そっちを引き摺ってしまったのが本当のところ。

  > 宵っ張りの遊び人が小腹を満たしに集う、密やかなレストラン

 も、共通のイメージです。

 完成して電子書籍をリリース出来たら、是非お読みいただきたいですなぁ。

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 私は嫌煙家なので、本当はタバコの類を出したくないのですが、

 今回は演出としてどうしても必要だったので、チラッと。

 

■ KAC202211:お題〈日記〉

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某神社の手水@桜の頃【☆☆☆】

 「ライカンスロピー」を、お題が出た当日中にサクッと仕上げ、

 翌土曜、意気揚々と新型コロナワクチン接種3回目を受けに行きまして

 ……次の日から三日間(つまり日曜から火曜まで)

 メチャクチャ体調が悪かったのです!!!

 でもって、日記体小説は、やろうと思えば長くなる――のは、学習済。

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 どうすれば短時間で制限字数内に収めて書けるだろうと、

 しばし悩みました。

 日記体あるいは日記をテクストのメインとする小説について語る二人

 ――というメタフィクション話にしようかとも思いましたが、

 取り留めがなさ過ぎる! そして、それでは間に合わん!!

 さすがにこの段階では皆勤賞を目指していましたし。

 が、もうダメかもと思った瞬間……来た、交換日記だ!!!

 で、どうにか書けましたけども、我ながらモヤモヤしますね(苦笑)。

 まあ、なんというか、アレです、例の、コグスウェルですよ、

  > 人間は二つの道を同時にたどることはできない、

  > 〈精神〉と〈自然〉とはどうしても相反する運命にあるのだ、

  > と言ったろう。

  >  これは真実だ。だが、嘘でもある。両方たどることはできるのだ。

  > ただし、そうするには二つの世界が必要だ。

 ってヤツね、「壁の中」(The Wall Around the World,1953)。

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 付言しますと、主要キャラクター三人の名前の漢字には

 みんな「心」が入っております。

 (時間がぁぁぁって騒ぐ割には細かいところに凝る性分)

 

◆まとめ

インデックスです。いつでもどうぞ、なんつって。

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残念ながらKAC202110〈ゴール〉から生まれた「見者-voyant-」ほどの

出来栄えにはなりませんでしたね、一作たりとも。

それが残念です。

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いつもこれくらい短くてエッジが利いてて

幻惑的な話を書きたいものだよね……。

 

【追記】

 こうしてブログを書いている間に運営からメールが来まして、

 抽選で当たったそうです、ギフト券¥1000。

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へぇそりゃどうも、ということで。

 

最新ショートショート公開。

姉さん事件です!……じゃなくって(汗)ええと、

我ながら驚くべきことに、KAC2022皆勤です、完走してしまいました💧

 

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最後のお題は〈日記〉。

とにかく制限字数&締め切りとの戦いでした(ゼェハァ)が、

どうにか間に合った作品のタイトルは「ミザントロープ」。

 

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ショートショート「ミザントロープ」イメージ。

 

タイトル misanthrope は「厭世家」を意味するフランス語。

英語での発音は「ミザンスロープ」。

心の隙間にフッと忍び込む、ここではないどこかからの招請の囁き。

日記を巡る、春霞に包まれた、ふんわりした怪談のようなものです。

カクヨムの仕様上、ホラーに分類するしかないのが癪ですね。

何故、幻想小説という括りが存在しないのだ……ꐦ

 

――って、太字の部分は本家拙サイトの記事をコピペ(笑)。

もう疲れ切って気力がござらんのよ(トホホ)。


ともあれ、お楽しみいただければ幸いです。

KAC2022総括は明日以降、このブログに書けたら書きます、

ということで、皆さまお疲れさまでした!

 

100分de名著 エドガー・アラン・ポー スペシャル

 

www.nhk.jp

 

先にテキストを読んでオンエアに備えておいた。

 

 

■ 第1回:
 「ページの彼方」への旅――『アーサー・ゴードン・ピムの冒険』

  The Narrative of Arthur Gordon Pym of Nantucket(1838)

ja.wikipedia.org

 ポー唯一の長編小説「アーサー・ゴードン・ピム」。

 当時、アメリカでは海洋冒険ものの人気が高かったが、

 実話が好まれていたのでタイトルに narrative の語を用い、

 編集者ポーがピム氏から原稿を預かって手を加えた実話小説

 ――という体裁を取った、メタフィクションの先駆。

 冒険、ホラー、SF……等々、ジャンルを融合させたのは、当時

 ポーが編集者として雑誌ブームの最前線に身を置き、

 読者のニーズを把握していたマガジニスト(雑誌文学者)だったから。

 内容は雑誌連載であるが故のトラブル・ストーリー。

 行き当たりばったりながらも筆力で読者を惹きつけた。

 但し、詳細な描写をする⇔しないことによる駆け引きを目論み、

 巧みな行間のコントロールを行ったにもかかわらず、

 アンフェアとも言える結末になったのは、

 書き手と読み手が当時の科学的知見=地球空洞説を

 共有していたため。

 主人公がどうやって帰還したかは言わなくてもわかるよね、と。

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 ラストは曖昧で、仕掛けは破綻しているが、

 余白を残したことで後代の作家に手法やエッセンスが引き継がれ、

 多大な影響を及ぼすに至った。

 そして、この冒険譚は文学ジャンルを巡るポー自身のサバイバルと

 重ね合わせることが出来るのだった。

 

■ 第2回:作家はジャンルを横断する――『アッシャー家の崩壊』

  The Fall of the House of Usher(1839)

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 詩と散文と心霊主義が融合したメランコリックなゴシックロマンス。

 冒頭から緻密に張り巡らされた伏線が結末に向かって収斂する、

 完璧な「効果の統一」。

 ポーは一編に要する読書時間は一時間が目安と考えており、

 その中で読者を面白がらせる最大の効果を上げることに注力した由。

 伊集院光氏の指摘「かつて一大ブームを築いたホラー映画群の基礎?」に

 膝を打つ。

 同じく、主要なモチーフは美女の死という点を踏まえて

 「死者=それ以上年を取らない=理想の美」と見る慧眼。

 屋敷とその主人の狂気の共鳴⇒二者の一体化を表現するのに

 カットバックという手法を採ったところは、

 20世紀の映画表現の先取りと言え、

 まだ映画が存在しなかった時代に書かれた極めて映画的な小説であり、

 表現ジャンルの枠組みを超えた名作。

 

 ところで、あくまで私見なのだが、読む度に感じるのは、

 ロデリックが自身と一族、そして屋敷の終焉を怖れ、

 おののく態度の裏に横たわるのは、

 双子の妹マデラインとの近親相姦(あるいは強姦)の記憶、

 および、その露見ではないのか――ということ。

 この点を論じた文献はないだろうか……。

 

■ 第3回:「狩るもの」と「狩られるもの」――『黒猫』

  The Black Cat(1843)

ja.wikipedia.org

 

 人間心理に着目し、

 本質的な悪を描出した、ホラー小説の起源の一つであり、

 ポー創作の黄金時代のピークを代表する傑作。

 人間の内部には悪の原理があるという〈天邪鬼の心理〉を

 取り上げた、言わばフロイト理論の先取りだが、

 背景には禁酒運動や、セイラムの魔女狩りの影響もあったのではないか。

 僅かな矛盾や逸脱も許容しない宗教的ユートピアにおける、

 土地の奪い合いに根差した密告・濡れ衣合戦などが……。

ja.wikipedia.org

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 【伊集院氏の慧眼】

  1.魔女狩りは現代のSNS社会と共通している。

  2.主人公は、殺人を犯した時点で善と悪の心が反転していたのだが、

    更に捻じれが生じ、内奥に後退した善の声が自身の秘密を暴露して、

    警官の前で妻の遺体を隠した壁を叩くという天邪鬼現象が起きている。

  

■ 第4回:ミステリはここから生まれた――『モルグ街の殺人』

  The Murders in the Rue Morgue(1841)

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 世界初の推理小説

 ポーはこれを ratiocinative tales(推理能力を働かせる小説)と自称した。

 彼は推理小説の父であると同時にジャンルの名付け親でもあった。

 

 名探偵オーギュスト・デュパンを活用=シリーズ化することによって、

 ポーはいわゆるスターシステムを確立した。

 また、デュパンシリーズは、

 探偵デュパンとその相棒である語り手のコンビが事件に挑む

 バディ物の起源ともなった。

 

 デュパンのモデルは実在した元犯罪者で、

 出獄後に警察の密偵を務めたフランソワ・ヴィドックと目される。

 探偵=犯罪者の知性を反復することが出来る存在、という考え方。

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 推理(探偵)小説の成立要件

 =近代都市の成立と、そこを行き交う人々の匿名性である――

 といったところで松山巖『乱歩と東京』を思い出した。

 「D坂の殺人事件」の舞台背景は散歩という趣味と喫茶店文化、

 そして、都会に蝟集した地方出身者たちの希薄な人間関係である……

 といった辺り。

 ともあれ、没落貴族であるオーギュスト・デュパン

 圧倒的なリテラシーによって自らの読みを商品化し、

 生活の資本としたが、これは雑誌の世界に身を置き、

 文筆で身を立てたポー自身の姿と重なる。

 膨大な情報を読むことで報酬を得るデュパン、すなわち情報貴族は、

 編集者であるが故に豊富な引き出しを持ち、様々な素材を融合させて

 Chemical Combination(化学的結合の実践)を成し得たポー自身の

 写し絵である。

 世界初の推理小説は、

 ポーが雑誌文学者として当時流行していたジャンルを横断し、

 模倣・融合・再構成といった実験を行った結果生まれたものだった。

 

【伊集院氏の慧眼】

 作品を味読し、掘り下げる文学研究の営みは、作家へのリスペクトそのもの。

 

ja.wikipedia.org

 

ブックレビュー『真珠の首飾り‐他二篇』

岩波文庫レスコーフ真珠の首飾り‐他二篇』を読了。

 

ja.wikipedia.org

 

19世紀ロシアの作家・ジャーナリスト、

ニコライ・レスコフの中短編小説集。

リズム感のいい神西節が冴える素晴らしい翻訳。

旧字だが全然読みにくくない。

手に取ったきっかけは岩波書店『図書』2020~2021年の亀山郁夫の連載

「新・ドストエフスキーとの旅」第9回

〈去勢派とバフチン――2018年8月、オリョール〉で

ムツェンスク郡のマクベス夫人」に言及されていたこと。

訳者があとがきに記したとおり、幻想的な趣きもありつつ、

現実から遊離していない物語群。

 

ja.wikipedia.org

tanemaki.iwanami.co.jp

 

ムツェンスク郡のマクベス夫人(Ledi Makbet Mcenskovo uezda,1866)

 極め付きの美女とは言い難いが

 若くコケティッシュなカテリーナ・リヴォーヴナは、

 ずっと年上の商人イズマイロフに嫁いだ。

 舅や使用人らと共に淡々と暮らしていた間は平和だったが、

 番頭衆の一人で格別の色男、

 プレイボーイと評判のセルゲイと不倫関係になって以来、

 長年胸の奥で眠っていた悪心(あくしん)が目覚めたかのように

 大胆不敵になり、遂には二人の利益のために殺人を犯す――

 というノワール小説。

 オチには途中で察しがついた……というのも、

 ヴァレーリー・トドロフスキーの映画『恋愛小説』(1994年)を

 思い出したため。

 映画はこの小説を意識した作劇だったのか、

 それとも、これがロシア式悲恋物のテンプレなのか??

 ちなみに、野心も希望もなく静かに暮らしていた女が

 ワイルドな美男と不倫の恋に落ちたことから大胆になっていく展開も同じ。

 ヒロインを強引にモノにする男の名も同じくセルゲイ。

 

 (DVDになっていないのか。きっそーꐦ)

 

 ちなみに、上記「新・ドストエフスキーとの旅」によれば、

 本作の初出はドストエフスキーが主宰していた雑誌『エボーハ』

 1865年1月号で、ドストエフスキーに高く評価されていた由。

 

真珠の首飾り~クリスマスの物語(Zhemchuzhnoe ozherelje,1886)

 結婚して幸せになりたい! いい人を紹介してくれ!!

 ――と弟に縋られた既婚の兄。

 弟はあるお嬢さんと意気投合したものの、彼女の父親が問題で……という、

 クリスマスと真珠のネックレスを巡るユーモア溢れる物語。

 

かもじの美術家~墓の上の物語(Tupejnyj hudozhnik)

 この作品だけ発表年不詳らしい。

 タイトルの「かもじ」は髢で、今で言うエクステの意。

 舞台役者のヘアメイクを手掛けたアーティストについて語る、美しい老乳母。

 彼女は元女優で、伯爵に強引に妾にされそうになったところを、

 意中の人であるヘアメイク担当の男性に助けられ、駆け落ちしたという……。

 伯爵に望まぬ性的関係を強要されて怯える女優に、

 彼女の髪をセットしながら「心配するな、連れ出してやるぞ」と

 耳打ちする〈かもじの美術家〉。

 痺れる~!!

 

……といった次第で、なかなか楽しい読書でありました。

それにつけても、早く戦争が終わりますように。

 

最新ショートショート公開。

まあまあ、本当にどうしちゃったんでしょう。

KAC2022第十のお題をクリアしてしまいましたわさ。

 

kakuyomu.jp

 

題して「ライカンスロピー」。

kakuyomu.jp

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ショートショート「ライカンスロピー」イメージ。

 

なんでこんな画像かって?

読めばわかるのョサ。

遊び足りなくて真夜中の宴に紛れ込んだ男の奇怪な体験。

 

便宜上、ジャンルをホラーにしましたが、

そんな怖いもんじゃありません。

ちょっとした幻想小咄といったところです。

我ながら平常運転っぽくてイイと思いますのョサ(笑)。

いつもこのくらいの長さと内容で書けたらなぁ……。

 

ともあれ、ご笑覧くださいませ。